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経理事務の生産性向上について(第1回)|Excel関数・VBAで効率化を進める

経理事務の生産性向上は、給与上昇が続く現代において避けて通れないテーマです。今回は、Excel関数やVBAを活用して経理業務を効率化する具体的な方法を紹介します。

経理事務の生産性向上について(第1回)|Excel関数・VBAで効率化を進める

はじめに:経理にも「生産性向上」の波が

ここ数年で急速に給与水準の上昇が進んでいます。
特に最低賃金の上昇と新卒初任給の上昇は顕著で、10年前に約800円だった全国平均の最低賃金は、2025年には1100円前後に。大卒初任給も21万円から25万円前後へと上がっています。

従業員にとっては喜ばしい変化ですが、経営者にとっては「人件費の上昇=固定費の増加」です。
この環境下で企業が利益を維持・拡大するには、一人ひとりの生産性を上げることが不可欠になっています。


経理事務が「生産性向上しにくい」理由

営業や製造のように成果が数字に直結する職種と違い、経理は受け身の業務が中心です。
例えば以下のような特徴があります。

  • 会計のルールや処理手順が固定されている
  • 会計ソフトという決まったツールで作業する
  • 部署内の人数が少なく、競争や比較が起こりにくい
  • 毎月のルーチンが多く、変化が少ない
  • 他社のやり方を学ぶ機会が限られている

こうした環境では、「慣れ」で一定水準のスピードに達しても、
その先の改善や効率化が止まりやすいのが現実です。

経営者から見れば、「慣れているだけでは足りない」時代になりました。
今後は、ITスキルを武器に“自分の手で業務を進化させる経理”が求められていきます。


経理事務の生産性を高める5つの手段

経理業務のパソコン作業にフォーカスすると、
生産性を上げる手段は大きく以下の5つに整理できます。

  1. Excel関数の活用
  2. VBA(マクロ)による自動化
  3. バッチファイルによる定時実行
  4. RPAツールによる操作自動化
  5. ERPなどSaaSツールによる統合管理

この記事ではまず、ハードルが低く効果が高い
①Excel関数 と ②VBA について詳しく解説します。


① Excel関数を使いこなす:最小コストで最大効果を

どの会社にもExcelは標準的に導入されています。
つまり、追加コストなしで生産性を高められる最強のツールです。

ただし、多くの経理担当者が次のような壁に直面します。

「関数は四則演算とSUMしか使っていない」
「複雑な関数を組むより、手入力したほうが早い気がする」

短期的には確かにそのほうが早く終わります。
しかし長期的に見れば、“手入力依存”は必ず非効率の壁にぶつかります。

■ 上達の最短ルート:他人のファイルを“分解”する

関数を覚えるだけでは実務で応用できません。
最も効果的な学習法は、他の人が作った関数を読むことです。

例えば次のような実務ファイルを観察してみましょう。

  • 売上台帳から自動で月次集計する関数
  • 売上明細と入金明細を突合して差額を抽出する関数
  • 部署ごとに支出を分類してグラフ化する関数

他人のExcelファイルを「分解」して理解すると、 関数の相性や組み合わせパターンが自然と身につきます。

  • MATCHVLOOKUP の組み合わせ
  • IFANDOR の条件式
  • SUMIFSFILTER のような範囲指定関数

これらを何度も見るうちに、
「この業務ならこの関数構成だな」とすぐ組めるようになります。

■ ピボットテーブルも活用しよう

売上分析や経費集計など、集計業務が多い経理にはピボットテーブルが欠かせません。
ただし、元データを更新した際には「更新」ボタンを押さない限り結果が古いままになる点に注意が必要です。

VBAと組み合わせれば、自動更新も可能です。
慣れないうちは、「更新忘れ防止のチェックリスト」を作っておくのもおすすめです。


② VBA(マクロ)でルーチンを自動化する

Excelのマクロ(VBA)は、ルーチンワーク削減の切り札です。
例えば以下のような自動化が可能になります。

  • 毎月の仕訳データを一括で集計・加工
  • フォルダ内の複数ファイルを開いて統合
  • ファイル名リストを自動生成
  • 売上データ更新時にグラフを自動再描画

VBAは「マクロの記録」でも作成できますが、
本格的な自動化を目指すなら、VBAコードを直接書く練習が不可欠です。

■ 学習のコツ:小さな自動化から始めよう

いきなり複雑な処理を自動化しようとすると、挫折しがちです。
最初は次のようなシンプルなコードから始めてください。

  • フォルダ内のファイル名を一覧に出す
  • 複数シートを1つにまとめる
  • シート内の特定セルを強調表示する

この「小さな成功体験」を積み重ねることで、
徐々に「複合タスクの自動化」ができるようになります。

■ 注意点:ブラックボックス化を防ぐ

VBAの最大の落とし穴は、属人化です。
作った本人が退職・異動すると、誰も修正できない「負の遺産」になることがあります。

その防止策として、

  • コード内に日本語コメントを丁寧に書く
  • マクロの仕様書を簡単でも残す
  • ファイル命名規則やシート構成を統一する
    など、「引き継ぎやすさ」を意識することが重要です。

■ Google環境の会社はGAS(Google Apps Script)

Googleスプレッドシートを使う企業では、VBAの代わりにGAS(Google Apps Script)が使えます。
書き方は異なりますが、考え方はほぼ同じです。
VBAを触っておけば、GASにもスムーズに移行できます。


まとめ:まずは「Excelを極める」ことから

経理の生産性向上と聞くと、RPAやERPなどの高価なツールを思い浮かべる方も多いですが、
実際にはExcel関数とVBAの習得だけで大きな効果が得られます。

  • 追加コストゼロで始められる
  • 今日から実務に応用できる
  • 自分で改善効果を実感できる

「今あるツールを最大限に使いこなす」ことこそ、
経理DXの第一歩です。


📘 次回予告:第2回「経理事務の生産性向上(後編)」
バッチファイル・RPAツール・ERP(SaaS)の導入による自動化・データ統合の実際を解説します。

This post is licensed under CC BY 4.0 by the author.