なぜ経理担当者は“忙しいふり”を覚えてしまうのか?
目次
- 第1章:成長できない経理の“出発点”
 - 第2章:中小企業では「成長の天井」が低い
 - 第3章:税理士任せの“受け身経理”
 - 第4章:楽を覚えた経理が職場に与える静かな悪影響
 - 第5章:孤立する少人数部署の限界
 - 第6章:成長を阻む二軸の構造
 - 第7章:そして、誰も育たない職場へ
 - 結び
 
第1章:成長できない経理の“出発点”
「うちの経理は育たない」――この言葉の裏には、単なる個人の怠慢ではなく、
成長機会を奪う構造があります。
まず、最大の問題は「お手本がいない」こと。
優秀な経理・財務部長がいれば、その姿を目指してスキルを磨くことができます。
しかし多くの中小企業では、そもそもそうした上司が存在しません。
仕訳をこなすだけの“事務員さん”が経理部を支えている――そんな構図が一般的です。
そして、仮に上司がいたとしても、
部下の育成を意識的に行う上司は多くありません。
ダメ出しだけで終わる、すぐ答えを教える。
その結果、部下は考えることをやめ、指示待ちになる。
経理の育成とは、本来“塾講師”のようなコミュニケーションが必要です。
問題を解かせ、間違いを一緒に分析し、再挑戦を促す――
そうした「考える習慣」を根気よく支えることが成長の鍵です。
第2章:中小企業では「成長の天井」が低い
経理に人件費をかける優先度は、営業に比べて低い。
そのため、簿記3級を持った“お姉さん”がルーティンをこなすだけ、という職場も多い。
当然、成長機会など生まれません。
中途採用で有能な経理人材を取ろうとしても、これまた難題です。
経営者自身が経理の専門性を判断できず、
「どんな人を採ればいいのか」すらわからない。
さらに、経理の専門性は会計・税務・管理会計・資金繰り・IT効率化など多岐にわたる。
そのため、専門家を採っても「評価できる人が社内にいない」。
結果、モチベーションを失い、すぐ転職してしまう。
第3章:税理士任せの“受け身経理”
経理が「税理士とのやりとりで成長している」と勘違いするケースも多い。
決算での質問対応を通じて多少慣れるが、これはあくまで“作業の熟練”であり、
思考の成長ではない。
「日常業務をこなしていれば成長している」と思い込む経理ほど、
自己研鑽をやめてしまう。
これは経理に限らず、バックオフィス全体に共通する“慢性病”です。
第4章:楽を覚えた経理が職場に与える静かな悪影響
経理は人気職です。
ハローワークでも「事務職」は常に応募が多く、
“楽そうだから”という理由で入ってくる人も少なくありません。
そうした人が次第に覚えるのが――
「忙しいふり」 です。
- 無駄な書類をため込む
 - 忙しそうに見せるふるまいを学ぶ
 - 結果ではなく努力量でアピールする
 
この“忙しいふり”が定着すると、
上司も下手に指摘できなくなります。
なぜなら経理は少人数だから。
一人が辞めたら業務が回らなくなるから。
だから、問題を見て見ぬふりをする。
その結果、誰も育たない。
第5章:孤立する少人数部署の限界
人数が少ない部署では、評価の目が上司しかありません。
そのため、牽制が働かない。
同僚同士の競争や刺激がないため、
“まあこの程度でいいか”という空気が蔓延します。
これは経理に限らず、どの少人数部署にも共通する問題です。
外からのプレッシャーがない組織は、必ず内側から緩んでいく。
第6章:成長を阻む二軸の構造
経理が成長しない原因は、次の2軸で整理できます。
- 本人の「成長意欲」の欠如(内的要因)
 - 成長機会が存在しない「環境」の欠如(外的要因)
 
意欲があっても環境がなければ転職する。
意欲がなければ、いくら環境を整えても変わらない。
つまり、「採用段階で本人の意欲を見極める」ことが何よりも重要です。
第7章:そして、誰も育たない職場へ
経理担当者が1人増えると、なぜか勝手に仕事も増える――
そんな現象を見たことがある人も多いでしょう。
本来は付加価値を生むチャンスですが、
やる気のない社員がいれば、
“書類整理で仕事をしている感”を出すだけになります。
こうして、経理は“悪い意味で忙しい部署”へと戻っていくのです。
結び
経理担当者が成長できない理由は、
本人の成長に対する意識が欠如してたり、
構造的に育たない環境ができていることが多いのです。
次回は――
「経理が成長できる職場をどう目指していけばいいのか?」
というテーマでお話しします。