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経理が成長する組織をどう作るか?【専門性編】

「なぜ経理担当者は忙しいふりを覚えてしまうのか?」の続編。経理が本当に成長するために必要な“専門性”と“環境”の整え方を解説します。

経理が成長する組織をどう作るか?【専門性編】

前回の記事では、「あなたの会社の経理担当者はなぜ成長しないのか?」について解説しました。
今回はその続編として、「では、経理が成長できる組織はどう作るのか?」というテーマを掘り下げます。


目次


第1章:経理の成長は“リーダー”で決まる

経理が成長する組織を作るうえで、最も大きな要素はリーダー(経理部長)の存在です。
知識と経験の両面で高い水準を持つ人がいること――これが理想ですが、現実にはそのような人材は多くありません。

では、「知識や経験に長けている」とは具体的にどういうことを指すのでしょうか?


第2章:資格は万能ではないが、成長のきっかけになる

知識の観点で最もわかりやすいのは「資格」です。
簿記の資格を持っていることは経理としての大前提。
それに加えて、他の資格を持っているとより望ましいでしょう。

ただし、現場で資格の知識がフルに活かせることはほとんどありません
会計系の資格は幅広い知識を求められますが、実務で使うのはその一部にすぎません。
この点だけを見れば、資格取得の“コスパ”は良いとは言えません。

しかし、それでも資格を取る意味はあります。
資格取得は本人の自信とモチベーションにつながるからです。
業務外で学び続ける姿勢がある人は、仕事の中でも新しい知識を吸収しようとする傾向が強い。
そして、資格の学習を通じて得た知識が、日常の業務における「気づき」につながることも少なくありません。


第3章:資格取得で注意すべきポイント

難易度の高い資格に挑戦することは素晴らしいことですが、
日常業務との両立が難しくなるため、現実的には簿記2級の取得を目標とするのがよいでしょう。

公認会計士や税理士資格は難易度が非常に高く、事業会社の経理担当者が目指すには現実的ではありません。
また、FP(ファイナンシャル・プランナー)の資格は個人向けの要素が強く、経理実務で活かせる場面は多くありません。
それでも、FP資格は比較的取得しやすく、「自分を成長させたい」という意欲の証としては有意義です。


第4章:本物の“経験”はどこで積まれるのか

経理担当者に必要なもう一つの柱が「経験」です。
しかし、正直に言って、事業会社の経理部門にいるだけでは幅広い経験を積むのは難しいのが現実です。

なぜなら、事業会社の経理は自社の会計しか扱わないから。
一方で、会計の専門職――例えば以下のような職種では、多様な企業の数字に触れます。

  • 公認会計士:会計の正当性を監査する専門家
  • 税理士:節税・税務のプロフェッショナル
  • 経営コンサルタント:管理会計・分析に特化
  • 銀行員:資金繰り・財務分析の専門家
  • IT企業出身者:業務効率化・システム構築に強い
  • 中小企業診断士:補助金や経営支援を得意とする

こうした経験を持つ人は、数字の背景を「生きた経営の文脈」として理解できます。
つまり、単なる仕訳ではなく、“経営のストーリーを読む力”を持っているのです。


第5章:採用で見るべき「経験の質」

事業会社が経理人材を採用する際に最も現実的なのは、税理士事務所経験者の採用です。
ただし、注意が必要です。

税理士と税理士事務所スタッフでは、専門性に大きな差があります。
多くのスタッフは「事務的な決算処理」に終始しており、思考よりも作業が中心になっていることが少なくありません。
したがって、「どのような業務を担当していたのか」「顧問先と直接やり取りをしていたか」を確認することが重要です。

特に、企業の担当者と直接面談していたかどうかは大きなポイントです。
面談を行うには、相手企業の財務状況を調べ、会計の数字を深く理解しておく必要があります。
この経験がある人は、単なる経理実務者ではなく、経営を理解する経理になれる可能性が高いのです。


第6章:専門性を持つ人材がいない場合の“打ち手”

では、専門性の高い人材でない社員がいる場合はどうすればよいでしょうか?
この場合、やはり上司による育成が最も重要です。

資格取得やeラーニング受講など、個人でできることもあります。
しかし、自社の会計を本気で強化しようとしたときに、「正解を判断できる人」がいないという壁にぶつかります。

たとえば――

  • 分析結果が正しいか?
  • 資金繰り表の妥当性は高いか?
  • 改善策の優先順位は妥当か?

こうした判断をできる人が社内にいないのです。


結び:外部に頼るなら“本質的に寄り添うパートナー”を選ぶ

外部に頼ること自体は悪いことではありません。
問題は「誰に頼るか」です。

銀行や税理士事務所は帳簿上の数字を把握していますが、
社員のモチベーションや投資の背景といった“見えない文脈”までは理解していません。
数字だけを見て経営を語るのは、極めて危険です。

一方で、コンサルティング会社の中には、
経理担当者と同じ目線で、会社の内側に入り込んで支援できるパートナーも存在します。
そうした存在をうまく活用しながら、
社内に「考える経理」「提案する経理」を育てていくことが、これからの時代に求められる組織の姿だと思います。


次回は、「経理が経営を動かす組織をどう作るか?【マネジメント編】」として、
組織設計と経営層との関わり方について掘り下げます。

This post is licensed under CC BY 4.0 by the author.