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数字だけを見ない分析|産業調査の視点が経理・経営分析に活きる理由

産業調査で培った「定性×定量」の分析姿勢が、経理・会計分析、経営判断にどのように活きているのか。決算書だけでは見えない実態をどう補うかを実体験をもとに解説します。

数字だけを見ない分析|産業調査の視点が経理・経営分析に活きる理由

現場の声

はじめに|数字だけでは判断できなかった違和感

金融機関で産業調査に携わっていた頃、私が一貫して大事にしていたのは、「数字のデータだけを見て判断しないこと」でした。統計や会計データを丁寧に読み解く一方で、必ず現場の声を集め、定性・定量の両面から状況を捉える。この姿勢は、その後の経理・会計分析の仕事でも大きく活きています。

経理担当だった当時、上司である経理部長からは次のように言われていました。

「マーケティングの数字は見せられない。決算書の数字だけで会計分析をしてください。」

一方で、社長からは

「この月次決算は、良いのか悪いのか判断してほしい」

と求められます。社内の詳細な内部情報が十分に集まらない中で、決算書の数字だけを見て経営状況を評価する──これは想像以上に難しい仕事でした。

第1部|決算書だけでは見えないものをどう補ったか

ヒアリングで情報を補完する

そこで私が意識したのが、決算書だけでは読み取れない情報を、ヒアリングで補うことです。

  • 経理部長には、最近の経営会議でどのような議論が行われているのか
  • 製造管理部の部長には、原材料の仕入価格や調達環境の変化
  • マーケティング部の部長には、集客動向やキャンペーン施策の内容

こうした情報を一つひとつ集めることで、数字の裏側にある「現実の動き」が少しずつ見えてきました。

原価率上昇の本当の理由

その結果、原価率が上昇していた理由は単純なコスト管理の問題ではなく、

  • 為替変動による輸入原材料価格の上昇(社外要因)
  • 商品の無料配布キャンペーン拡充による原価構造の変化(社内要因)

という、内外両面の要因が重なっていることが分かりました。

さらに、為替要因の影響が大きく、先行きについても不透明感が強いことから、

「現状を放置すれば、収益悪化が続く可能性が高い」

という判断に至り、製品の値上げという経営判断が下されました。結果として、収益は改善しました。

この一連の分析と判断は、数字だけを見ていては到底たどり着けなかったものです。

第2部|産業調査で培った分析姿勢

生の声を集めるということ

金融機関での産業調査では、観光業、個人消費、住宅投資など、さまざまな分野を対象に、

  • 経済がどの程度のスピードで成長しているのか
  • 産業や地域ごとの構造的な課題は何か

といった分析を行っていました。

その中で特に意識していたことが2つあります。1つ目は、できるだけ生の声を聞くことです。

統計データは網羅性が高い一方で、

  • 大企業の動向に数字が大きく左右される
  • 集計や公表までに時間がかかる

といった特徴があります。

一方、企業の経営者や経営企画部の方に直接話を伺うことで、

  • リアルタイムの業況
  • 統計には現れない特徴的な動き
  • 先行きの見通しやリスク要因

を把握することができます。これにより、産業の将来像をより立体的に描けるようになります。

「決算書を見て何がわかりますか?」への違和感

中小企業の方とお話ししていると、

「うちの決算書を見て、どんな分析ができますか?」

と聞かれることがあります。

もちろん、決算書から読み取れる情報は多くあります。たとえば、

  • 同業他社との比較による特徴
  • 時系列での業績トレンド

などです。ただし、決算書だけで完結する分析は、どうしても不十分になりがちです。

仮に利益が減少していたとしても、

  • 投資フェーズとして意図的に利益を抑えているのか
  • 競合環境が変化しているのか
  • 社内の業務効率に課題があるのか
  • サプライチェーンに問題が生じているのか

原因はまったく異なります。

おわりに|言語と数値の相互変換を大切に

テレビニュースで街頭インタビューを目にすることが多いように、どれだけデータ収集技術が進歩しても、生の声に勝る情報源はありません

私は社外の人間なので、社内の細かな実情までは分かりません。自社やグループの内情を最も理解しているのは、やはり経営者や現場の方々です。

経営者の感覚や問題意識を、データとしてどう表現し、どう検証するか──それが、私たちコンサルタントや経営企画、経理の役割だと考えています。

データだけを見て現場感覚を欠いた分析を行えば、

  • 現場の反発を招く
  • 過小評価していたリスクが後から顕在化する

といった事態にもつながりかねません。

継続的なヒアリングの中で、何気ない一言から新たなインサイトが得られることもあります。

数字だけを見た「なんとなく分析」を防ぐためにも、分析にはぜひ現場の声を反映してほしい。

産業調査で学んだ「言語と数値の相互変換」という考え方は、会計分析や経営分析においても、今なお重要な指針であり続けています。

This post is licensed under CC BY 4.0 by the author.