Post

業務効率化は「保守負担」とのトレードオフである──現場経験から考えるIT化の落とし穴

業務効率化や自動化は万能ではありません。VBAやRPA導入の失敗事例をもとに、効率化と保守負担のトレードオフについて現場目線で考察します。

業務効率化は「保守負担」とのトレードオフである──現場経験から考えるIT化の落とし穴

tradeoff

はじめに:業務効率化は「やれば良い」ものなのか

業務の効率化、DX、IT化。
近年、どの企業でも当たり前のように語られるテーマですが、
「効率化した結果、かえって業務が回らなくなった」という話も少なくありません。

私自身、これまで複数の企業で業務効率化・システム化の現場に関わってきましたが、
その経験から強く感じているのは、

抜本的な業務効率化は、必ず保守負担とのトレードオフになる

という点です。

以下、実際に関わった企業でのエピソードをもとに、このテーマを整理してみたいと思います。


VBAで自動化したはずのシフト表が、逆に業務を止めた話

ある製造業の会社では、シフト表をExcelで作成していました。
そこに、ジョブローテーションで着任した若手社員が、

「もっと効率化できるはずだ」

と考え、シフト表の作成をVBAで自動化しました。

ところが結果として、

  • VBAを作ったにもかかわらず、作成時間はほとんど短縮されない
  • 後任者がVBAをまったく理解できない
  • 細かな修正が必要になったタイミングで手が出せない

という状況に陥りました。

最終的には、後任者がシフト表のフォーマットを一から作り直すことになり、
自動化は事実上、無かったことになってしまいました。

ここで問題だったのは、VBAそのものではありません。

  • 自分しか保守できない仕組みだったこと
  • ジョブローテーションを前提にした業務設計になっていなかったこと

この2点に尽きると思います。


RPA導入が「確認作業」を増やした通販会社の事例

別の通販会社では、バックオフィス業務の効率化を目的に、
全社的にRPAツールを導入しました。

背景としては、

  • 各部署が自律的に業務効率化を進められるようにしたい
  • 情報システム部が効率化相談を一手に引き受けていた

といった事情があり、「現場主導で完結できる効率化」を目指したものでした。

しかし実際には、

  • RPAプロセス構築に多くの時間がかかる
  • エラーが頻発し、処理が最後まで完結しない
  • 正常終了したか毎回人が確認する必要がある

という事態が続出しました。

結果として現場からは、

「これなら元の作業の方が良かった」

という声が上がり、RPAは次第に使われなくなっていきました。

効率化のはずが、
「監視・確認」という新たな業務を生み出してしまった典型例だと思います。


業務効率化に不可欠な「保守」という視点

これらの事例から見えてくるのは、
業務効率化・自動化を進めるには、

その仕組みが動き続けるように、誰かが保守し続ける必要がある

という当たり前の事実です。

この視点で考えると、

  • SaaS:保守を外部に完全委託する効率化
  • 情報システム部:社内システムインフラを保守する部門

と捉えることができます。

逆に言えば、
内製化したシステムは、保守まで含めて内製化しているということになります。


「効率化の実績づくり」が生む落とし穴

IT化が進んだ現代では、

  • 効率化したという成果を作りたい
  • 新しいツールや技術を使いたい

といった動機が先行し、

  • 方法論だけが独り歩きする
  • 作った本人しか触れない仕組みになる

ケースが少なくありません。

その結果、

  • 保守できない担当者が着任
  • システムが使えなくなる
  • 逆に業務が停滞する

という本末転倒な事態が起こります。

だからこそ、
上司や管理職の立場では、

「この仕組みは、他の担当者でも保守できそうか?」

という観点を、効率化提案の評価軸に必ず入れてほしいと思います。


全社員が「保守できる」状態を作ったBIツール導入の例

一方で、うまくいった事例もあります。

ある製造業の会社では、全社的な業務効率化の一環としてBIツールを導入し、

  • 全社員向けの操作研修を実施
  • 習熟度に差はあるものの、基本的な操作は誰でもできる状態

を作りました。

確かに若手社員の吸収は早かったですが、
「特定の人しか触れない」状態を作らなかったことが大きなポイントです。

このように、

  • 保守・運用を特定の個人に依存しない
  • 組織として扱える状態を作る

ことができれば、
保守リスクを過度に恐れることなく業務効率化を進めることができます。


おわりに:効率化とは「仕組み+体制」である

業務効率化は、
単に「自動化すること」「ITツールを入れること」ではありません。

  • 誰が
  • どこまで
  • どの期間
  • どうやって保守するのか

ここまで含めて初めて、本当の意味での効率化になります。

これから業務効率化を進めようとしている方は、
ぜひ「保守」という視点を一段深く考えてみてください。

効率化は、作った瞬間ではなく、
使われ続けたときに初めて価値を生むのだと思います。

This post is licensed under CC BY 4.0 by the author.