季節調整値はこうして作られる|X-12-ARIMAで原数値が「信頼できる指数」に変わるまで
日銀などが採用するX-12-ARIMAによる季節調整の仕組みを、具体的な数値例を使いながら解説します。季節調整値が「得体のしれない数字」ではなく、論理的なプロセスを経た信頼できる指標であることを理解するための実務寄り解説です。
はじめに|「季節調整値は信用できない数字」なのか?
前回の記事では、季節調整値とは何か、なぜ使われるのかを初心者向けに解説しました。
今回は続編として、
- 季節調整値は どのような計算プロセスを経て作られるのか
- 原数値が どの段階で、どう加工されていくのか
- なぜ政府や日銀が X-12-ARIMAという手法を使っているのか
を、具体的な数値例を交えながら、ややマニアックに解説します。
統計に不慣れな方ほど、
「季節調整値って、なんだかよく分からない計算で作られた数字では?」
と感じがちですが、実際にはかなり機械的かつ再現性の高いプロセスで作られています。
その中身を知ることで、季節調整値に対する見え方が大きく変わるはずです。
日銀も採用する「X-12-ARIMA」とは何か
日銀や政府統計では、季節調整の方法として
X-12-ARIMA(米国センサス局が開発)が広く使われています。
X-12-ARIMAは一言でいうと、
時系列データを
「トレンド」「季節要因」「不規則要因」
に分解するための標準的な統計手法
です。
ポイントは、人の主観で調整しているわけではないという点です。
季節調整の基本構造|原数値は3つに分解される
X-12-ARIMAでは、原数値(Observed)は次のように考えます。
原数値 = トレンド × 季節要因 × 不規則要因
(※実務では「加法モデル」を使う場合もありますが、ここでは理解しやすい乗法モデルで説明します)
それぞれの意味は以下の通りです。
- トレンド要因(Trend)
→ 景気や構造成長など、長期的な動き - 季節要因(Seasonal)
→ 毎年ほぼ同じ時期に繰り返される変動(年末商戦、年度末など) - 不規則要因(Irregular)
→ 天候、災害、突発的イベントなど一時的なノイズ
季節調整値とは、
原数値から「季節要因」だけを取り除いたものです。
具体例①|毎年12月に売上が伸びる店舗のケース
ここで、かなり単純化した例を考えます。
原数値(売上)
| 月 | 売上 |
|---|---|
| 12月 | 1,000万円 |
| 1月 | 500万円 |
一見すると、
「12月から1月にかけて、売上が半減している」
ように見えます。
しかし、この店舗では毎年同じパターンが続いているとします。
- 12月:年末商戦で売上が大きく増える
- 1月:反動で売上が落ち込む
具体例②|季節要因を「指数」として推定する
X-12-ARIMAでは、過去数年分のデータを使って、
「この月は、平常月に比べて何%ズレやすいか」
を推定します。
仮に次のような季節指数が得られたとします。
| 月 | 季節指数 |
|---|---|
| 12月 | 1.25 |
| 1月 | 0.70 |
意味は以下の通りです。
- 12月は 通常月の1.25倍売れやすい
- 1月は 通常月の0.70倍しか売れにくい
具体例③|原数値から季節要因を取り除く
では、実際に季節調整を行います。
12月の季節調整値
1,000万円 ÷ 1.25 = 800万円
1月の季節調整値
500万円 ÷ 0.70 ≒ 714万円
季節調整後の比較
| 月 | 原数値 | 季節調整値 |
|---|---|---|
| 12月 | 1,000万円 | 800万円 |
| 1月 | 500万円 | 約714万円 |
ここで初めて、
「12月→1月で売上は 実質的にはやや減少」
という、ビジネス実態に近い判断が可能になります。
X-12-ARIMAが「それっぽい調整」ではない理由
「でも、その季節指数ってどうやって決めているの?」
と思われるかもしれません。
X-12-ARIMAでは、
- 移動平均
- 回帰分析
- 外れ値補正
- ARIMAモデルによる先読み補完
などを組み合わせて、機械的に季節性を推定します。
重要なのは、
- 特定の月を「都合よく調整」していない
- 同じデータを入れれば、誰がやっても同じ結果になる
という点です。
なぜ「過去データが更新される」と季節調整値も変わるのか
季節調整値は、新しいデータが追加されると、過去分も微修正されることがあります。
これは欠点ではなく、
「季節パターンの推定精度が上がった結果」
です。
過去数年分をまとめて見直すことで、
より正確な季節要因が再推定されるためです。
季節調整値は「実務家のための数字」
季節調整値は、
- 景気判断
- 前月比・前期比の分析
- 経営判断や投資判断
といった意思決定のための数字です。
見た目は少し取っつきにくいですが、
その裏側は、かなり泥臭く、論理的な統計処理の積み重ねです。
おわりに|「得体のしれない数字」から「使える数字」へ
季節調整値は魔法の数字ではありません。
しかし、
- なぜ調整が必要なのか
- どういう考え方で作られているのか
を理解すると、
原数値よりも誠実に実態を表そうとした数字であることが分かります。
次に政府や日銀の統計を見るとき、
ぜひ「この数字は、どういう季節要因を取り除いた結果なのか」を
一段深く考えてみてください。
