移動平均を使った会計分析|単月のブレに惑わされないための実務的アプローチ
単月売上のブレが大きい企業において、移動平均はトレンド把握に有効な会計分析手法です。通販事業や中途半端な周期性を持つ売上分析を中心に、実務で使える具体例を解説します。
はじめに|「単月の数字」に振り回されていませんか?
月次決算や管理会計の現場では、
「今月の売上が落ちた」「前年同月比がマイナスだ」
といった単月の数字に一喜一憂してしまうケースが少なくありません。
しかし、特に以下のような企業では、単月比較そのものがノイズになりやすいという問題があります。
- 通販・D2Cなど、キャンペーンや広告投下で売上が大きく動く
- 定期購入とスポット購入が混在している
- 顧客の購買行動に周期的なサイクルがある
- 月ごとの売上変動が激しい
こうしたケースで有効なのが、移動平均を使った会計分析です。
移動平均とは?(会計分析での位置づけ)
移動平均とは、
直近○か月分の数値を平均し、それを毎月ずらして算出する手法です。
例えば「3か月移動平均」であれば、
- 1月〜3月の平均
- 2月〜4月の平均
- 3月〜5月の平均
という形で算出します。
会計分析の文脈では、移動平均は次のような役割を持ちます。
- 単月のブレ(ノイズ)をならす
- 売上・利益の基調(トレンド)を把握する
- 異常値や構造変化に気づきやすくする
通販ビジネスと移動平均の相性が良い理由
通販ビジネスでは、売上が以下の要因で大きく変動します。
- 広告投下タイミング
- セール・キャンペーン
- 新商品の投入
- 天候・季節要因
- 顧客の購買サイクル
この結果、単月売上は非常に荒れやすい傾向があります。
例えば、
- 12月:セールで売上1,200万円
- 1月:反動減で売上600万円
といったケースでは、
前年同月比や前月比だけを見ると、実態以上に悪く(または良く)見えてしまいます。
移動平均を使うことで、
- 「一時的な山・谷」
- 「本当にトレンドが変わったのか」
を切り分けて判断できるようになります。
5か月・7か月など「中途半端な周期」に強い
会計分析でよく使われる指標には、
- 前年同月比
- 季節調整後数値
があります。
しかし、次のようなケースではこれらがうまく機能しないことがあります。
- 顧客の購買サイクルが5か月、7か月など年周期でない
- ビジネスモデルが変化しており、過去との比較が歪む
- そもそも十分な年次データがない
このような場合、
移動平均は「周期を仮定しない分析手法」として非常に有効です。
- 特定の季節性を前提にしない
- 実績データそのものから流れを見る
という点で、実務との相性が良い手法と言えます。
会計分析で使える移動平均の具体例
① 売上トレンドの把握
最も基本的な使い方です。
- 単月売上:実績確認用
- 移動平均:トレンド確認用
と役割を分けることで、
- 「今月はブレただけなのか」
- 「下落トレンドに入ったのか」
を冷静に判断できます。
② 広告効果の持続性チェック
広告投下後に売上が伸びた場合でも、
- 単月だけ伸びたのか
- 移動平均も上向いているのか
を見ることで、一過性か構造変化かを判断できます。
これは広告費の意思決定にも直結します。
③ 粗利・限界利益の安定性分析
売上だけでなく、
- 粗利額
- 粗利率
- 限界利益
にも移動平均は有効です。
特に、
- 値引きキャンペーンが多い
- 商品ミックスが頻繁に変わる
場合、単月粗利率は非常に不安定になります。
移動平均を見ることで、
- 利益構造が改善しているのか
- 一時的に崩れているだけなのか
を判断しやすくなります。
④ 固定費吸収の進捗確認
人件費や家賃などの固定費に対して、
- 売上(移動平均)
- 粗利(移動平均)
を重ねることで、
固定費吸収が進んでいるかどうかを把握できます。
単月では赤字でも、
移動平均で見ると改善傾向にある、というケースも少なくありません。
⑤ 異常値(アラート)の検知
移動平均と単月実績を並べることで、
- 明らかに乖離している月
- これまでと違う動きをしている月
が一目で分かります。
これは、
- システムトラブル
- 集計ミス
- 想定外の外部要因
に気づくための早期警戒指標としても使えます。
移動平均を使う際の注意点
便利な移動平均ですが、万能ではありません。
- 直近の急変には反応が遅れる
- 平均期間の設定次第で見え方が変わる
- 「なぜそうなったか」の原因分析は別途必要
そのため、
単月数値 × 移動平均 × 他の分析手法
を組み合わせることが重要です。
おわりに|「見るべき数字」を整理するための道具
移動平均は、
高度な統計手法ではありませんが、実務では非常に使い勝手の良い分析手法です。
特に、
- 単月の数字が荒れやすい
- 前年同月比がしっくりこない
- 経営会議で数字の解釈がブレる
といった企業では、
「まず移動平均を置いてみる」だけで、議論の質が大きく変わります。
会計分析は、
正しい数字を見ることよりも、正しく解釈できる数字を選ぶことが重要です。
移動平均は、そのための有力な選択肢の一つと言えるでしょう。
