上場企業でも起こる不正会計|経理横領と経営者主導型の2つのパターン
不正会計は一部の中小企業だけの問題ではありません。上場企業の事例も踏まえ、不正会計の2つの典型パターンと、経理担当者が果たすべき役割、不正を未然に防ぐための実務的な対策を整理します。
はじめに|不正会計は「どこにでも起こり得る」
不正会計というと、
「ガバナンスが弱い中小企業の話」
「特殊な悪意ある担当者が起こす例外的な事件」
と捉えられがちです。
しかし実際には、上場企業であっても不正会計は繰り返し発生しています。
東芝の不正会計問題をはじめ、直近でも社長主導による会計不正が明るみに出た事例があり、「規模」や「上場・非上場」は本質的な防止策にならないことがわかります。
本記事では、不正会計を大きく 2つのパターン に分け、
- どのような構造で不正が起こるのか
- 経理担当者はどこで関与してしまうのか
- 未然に防ぐために何ができるのか
を、実務目線で整理します。
不正会計の2つの典型パターン
パターン①:経理担当者が単独で行う不正(横領型)
まず1つ目は、経理担当者が単独で行う横領型の不正です。
よくある構造
このタイプの不正は、以下の条件が重なると発生しやすくなります。
- 経理担当者が 1人で会計業務を完結 させている
- 振込・現金管理・仕訳入力・残高確認を 同一人物が担当
- 経営者が「数字は経理に任せきり」で 中身を見ていない
特に中小企業では、
「経理は長年勤めているベテランだから大丈夫」
「疑うのは失礼だ」
という心理が働き、牽制が一切効いていない状態が生まれがちです。
横領は「少額・長期」で気づかれない
横領型不正の特徴は、
- 1回あたりの金額は小さい
- 数年単位で継続する
- 決算書上は大きな違和感が出にくい
という点です。
例えば、
- 仮払金・立替金がいつまでも精算されない
- 使途不明な雑費が毎月一定額発生している
- 現金残高が帳簿と微妙に合わない
といった 「小さな違和感」 が積み重なります。
パターン②:経営者主導で行われる不正(粉飾・資金調達型)
2つ目が、経営者主導による不正会計です。
こちらは、
- 融資を引き出すため
- 財務制限条項(コベナンツ)を回避するため
- 上場維持・株価維持のため
といった目的で行われるケースが多く見られます。
上場企業でも起こる理由
上場企業であっても、次のような状況では不正が起こり得ます。
- 業績悪化が続き、後戻りできなくなっている
- 経営トップの発言力が極端に強い
- 社内で異論を唱えにくい雰囲気がある
実際、過去の上場企業の不正会計事例を見ると、
- 売上の前倒し計上
- 原価や費用の先送り
- 実態のない取引の計上
といった 「一時的に数字を良く見せる処理」 が繰り返されています。
経理担当者は「被害者」か「共犯者」か
経営者主導の不正会計で、必ず問題になるのが 経理担当者の立場 です。
なぜ経理が巻き込まれるのか
経理担当者は、
- 実際に仕訳を入力する
- 決算書を作成する
- 監査対応の窓口になる
という立場にあるため、
不正を「知ったうえで処理してしまう」 状況に置かれがちです。
特に、
「これは一時的な処理だから」
「来期に必ず戻す」
「銀行には黙っておいてほしい」
といった説明を受け、結果的に 共犯的な立場 になってしまうケースも少なくありません。
経理はモラルが強く問われる職種
経理は、
- 指示されたからやった
- 雇われている立場だから逆らえなかった
という言い訳が 通用しにくい職種 です。
実際の不正会計事件では、
- 経営者だけでなく
- 経理責任者や担当者も
責任を問われるケースが多く見られます。
経理担当者の横領を未然に防ぐための実務対策
ここからは、特に 中小企業で実行可能な対策 を整理します。
① 業務を「1人で完結」させない
最低限、以下は分離すべきです。
- 振込実行者と承認者を分ける
- 現金管理と帳簿記録を分ける
- 仕訳入力者とチェック者を分ける
完璧な内部統制でなくても、
「誰かに見られている」構造 を作ることが重要です。
② 月次で「違和感」を見る習慣を持つ
経営者や管理者は、
- 仮払金・立替金の残高推移
- 雑費・諸経費の月次推移
- 現預金残高の増減理由
を 金額の大小ではなく「動き」で見る ことが大切です。
「毎月同じように動いているから安心」
ではなく、
「なぜ毎月同じなのか?」
という視点が不正の芽を摘みます。
③ 「性善説」ではなく「仕組み」で守る
横領防止は、
- 人を疑うこと
ではなく - 人を守る仕組みを作ること
です。
チェック体制があることで、
- 誘惑にさらされにくくなる
- 疑われるリスクも減る
という 経理担当者側のメリット もあります。
経営者主導の不正を防ぐために必要な視点
経営者主導の不正は、
個人のモラルではなく、構造の問題 で起こります。
- 業績悪化を正直に共有できるか
- 数字が悪いときに相談できる相手がいるか
- 短期の資金繰りと中長期の経営を切り分けて考えられているか
こうした点が欠けると、
「一時しのぎの不正」が常態化し、引き返せなくなります。
おわりに|不正会計は「突然」起こるのではない
不正会計は、ある日突然起こるものではありません。
- 小さな例外処理
- 小さな見逃し
- 小さな妥協
が積み重なった結果、
気づいたときには取り返しがつかない状態 になっています。
だからこそ、
- 数字を定期的に点検する
- 仕組みで牽制を効かせる
- 経理・経営者ともに「無理な数字」を作らない
こうした地道な取り組みが、
最大の不正防止策になります。
不正会計は、
「起こした人」だけでなく
「見逃した組織」全体の問題です。
自社は大丈夫か、
一度立ち止まって見直すきっかけになれば幸いです。