会計分析で本当に大事なのは「トレンド」を読むこと|過去説明で終わらせないための考え方
会計分析は単なる過去の数字説明ではありません。業績のトレンドを読み、未来を予測し、経営判断につなげるために何を意識すべきかを解説します。
会計分析で最も重要なのは「トレンド」を把握すること
会計分析において最も重要なことは何でしょうか。
私は「業績やコストのトレンドを正しく捉えること」だと考えています。
ところが、実務の現場を見ていると、会計分析が
「過去の数字の変動要因を説明する作業」
に終始してしまっているケースを多く見かけます。
もちろん、過去の数字の変動要因を把握すること自体は重要です。
しかし、それが目的化してしまってはいないでしょうか。
なぜ会計分析は「過去説明」で終わってしまうのか
経理担当者や税理士事務所において、会計分析の主目的が
「なぜこの費用が増えたのか」
「なぜ売上が下がったのか」
といった過去の数字の説明になっていることは少なくありません。
理由は単純です。
- 過去の数字はすでに確定している
- 請求書や契約書を見れば原因が特定できる
- 関係部署に聞けば理由がわかる
つまり、過去の説明は比較的“簡単”なのです。
しかし、ここで一度立ち止まって考える必要があります。
過去の数字を説明しても、過去は変えられない
どれだけ丁寧に分析しても、
過去の数字そのものは1円たりとも変えられません。
では、なぜ私たちは過去の数字を分析するのでしょうか。
それは、
「未来をより良くするため」
以外にありません。
- なぜ利益率が下がったのかを知る
- なぜ売上が伸びたのかを理解する
これらはすべて、
「今後も同じ状況が続いたらどうなるのか」
「今後は何を変えればよいのか」
を考えるための材料です。
会計分析の本質は「未来を考えること」
会計分析の本質を一言で言えば、
過去を分析することで未来を予測し、
未来がより良い方向に進むための打ち手を考えること
です。
つまり、会計分析とは
「現状ある情報をもとに、先行きの数字を描く作業」
だと言えます。
ところが、多くの現場ではこの「未来」の部分に踏み込めていません。
なぜ未来予測は避けられがちなのか
理由は明確です。
未来予測は非常に難しいからです。
- 原価率は今後も上がり続けるのか
- 好調な売上はどこまで伸びるのか
- 人件費は今後どの程度上昇するのか
これらはすべて、不確定要素だらけです。
過去の説明のように、
「この請求書が増えたからです」
と断定することはできません。
そのため、
「未来のことなんてわかりません」
と考えてしまいがちです。
しかし、わからないからといって考えないのは、会計分析を放棄しているのと同じです。
未来を考えるために必要なのが「トレンド」という考え方
ここで重要になるのが、
会計の数字を“点”ではなく“流れ”で見るという視点です。
すなわち、トレンドを意識することです。
トレンドとは、
- 先行きの数字は上向きそうか
- 下向きそうか
- 横ばいで推移しそうか
を考えることです。
重要なのは、
「足もとの数字がどうか」ではありません。
足もとの数字とトレンドは必ずしも一致しない
例えば、
- 足もとの数字が一時的に悪化しているだけなら、トレンドは横ばい
- 足もとの数字が横ばいでも、先行きに上昇要因が多ければ、トレンドは上昇
ということも十分にあり得ます。
このように、
トレンドとは「将来の方向性」を示す概念です。
そして、トレンドを見る対象は売上だけではありません。
トレンドはすべての会計項目に存在する
- 売上
- 原価
- 人件費
- 家賃
- 外注費
- 水道光熱費
あらゆる会計項目にトレンドがあります。
ここからは、特にイメージしやすい
「原価(仕入れ値)」を例に考えてみます。
仕入れ値は今後どうなるのか?
最近、スーパーに行くと、
ほぼすべての商品が値上がりしていると感じる方も多いでしょう。
企業にとっても同様で、
仕入れ値の上昇が収益を圧迫しているケースは非常に多くなっています。
では、ここでの問いです。
仕入れ値は今後も上がり続けるのでしょうか?
「わからない」で終わらせないことが重要
この問いに対して、
「未来のことなんてわかりません」
と言ってしまうのは簡単です。
しかし、わからないなりに仮説を立てることこそが会計分析の仕事です。
例えば、
「今後も仕入れ値は上がっていく可能性が高い」
という仮説を立てること自体は問題ありません。
重要なのは、
その仮説に納得できる“説明”があるかどうかです。
トレンドを説明するための材料を集める
仕入れ値上昇の仮説を補強する材料として、例えば以下が考えられます。
- 消費者物価指数が上昇トレンドを維持している
- 大企業を中心に値上げを実施し、利益を確保できている企業が増えている
- 消費者の値上げ許容度が高まっている
- 円安水準が長期化している
- 世界情勢が不安定で、原油・輸入品価格が下がりにくい
これらを踏まえると、
「仕入れ値が下がる要因は少ない」
という説明が可能になります。
特に注意すべきは「プライスリーダー」の動き
もう一つ、非常に重要な視点があります。
それは、
大企業がプライスリーダーとなり、先に値上げをする
という構造です。
例えば配送業界では、
- ヤマト運輸
- 佐川急便
- 日本郵便
といった大手企業の値上げが先行しています。
大手の値上げは中小企業に波及する
大手企業の値上げが定着すると、
その後、中小企業にも値上げが広がっていくケースが非常に多いです。
もし、
- 大手仕入先はすでに値上げしている
- 中小仕入先はまだ値上げしていない
という状況であれば、
今後、中小仕入先の値上げが進み、
さらに仕入れ値が上がる可能性がある
と考えるのは自然でしょう。
「どのくらい上がるかわからない」への向き合い方
よく聞くのが、
「どのくらい値上げされるかわからない」
という声です。
この場合にやるべきことは明確です。
- 同業他社でどの程度の値上げが進んでいるか
- 過去の値上げ幅はどのくらいだったか
- 業界全体のコスト構造はどうなっているか
こうした情報を集め、
“幅”を持たせた数字予測を行います。
トレンドを意識すると未来予測の説明がしやすくなる
トレンドを意識すると、
- 足もとの変動は一過性か
- 元に戻る可能性はあるか
- 今後も続きそうか
といった整理がしやすくなります。
これは、経営者に数字を説明する際にも非常に有効です。
トレンド予測のわかりやすい例:新卒初任給
トレンドのイメージとして、
新卒の初任給を考えてみましょう。
今後の初任給水準はどうなると思いますか?
おそらく多くの方が、
「上がっていくだろう」
と予測するはずです。
なぜ初任給は上がると予測できるのか
理由は明確です。
- 少子化により新卒人口が減少することはほぼ確定している
- 新卒獲得競争が激化することが想像できる
- 大手企業が先行して初任給を引き上げている
これらの要素を踏まえれば、
人件費のトレンドは上昇方向と考えるのが自然です。
不測の事態は一旦脇に置く
もちろん、
- コロナショックのような突発的な事態
- 世界的な金融危機
が起これば、状況は一変します。
しかし、
すべての不測の事態を織り込むことは不可能です。
まずは、
「現状の経営環境が続いた場合」
を前提に数字を描くことが重要です。
会計分析には情報収集力が求められる
こうしたトレンド分析・未来予測を行うには、
- 経済ニュースのチェック
- 業界構造の理解
- 統計データの読み取り
- 社内ヒアリング
など、膨大な情報収集が必要になります。
経理の仕事は「仕訳入力」で終わらない
経理の仕事は、
- 請求書を整理する
- 仕訳を入力する
だけではありません。
情報を集め、未来を見通し、
経営者が意思決定するための材料を提供すること
これこそが、会計分析の本来の役割です。
まとめ|会計分析を「未来につなげる」ために
- 会計分析の目的は過去説明ではない
- 未来を考えるために過去を分析する
- そのためにはトレンドを意識する
- わからなくても仮説を立て、説明する
- 情報を集め続ける姿勢が不可欠
会計分析を、
「過去を語る作業」から「未来を描く仕事」へ。
その第一歩が、
トレンドを意識することなのです。