資金繰り表を「作りたい経営者 VS 作りたくない経理」
資金繰り表を作りたい経営者と、作りたくない経理担当者。そのジレンマの正体と、乗り越えるための経営者のリーダーシップの重要性について解説します。
資金繰り表はなぜ必要か?
資金ショートは、すなわち倒産に直結します。
黒字決算でも、手元資金が尽きれば会社は続けられません。
「だから資金繰り表を作ろう」と頭では分かっている経営者は多いですが、実際には作れていない会社がほとんどです。なぜでしょうか?
そこには、中小企業特有の「ジレンマ」があります。
それが、作りたい経営者 vs 作りたくない経理 という構図です。
経営者の本音:「将来が見えないのが怖い」
経営者の立場からすれば、資金繰り表が欲しいのは当然です。
- 来月の資金は足りるのか?
 - 設備投資をしても大丈夫か?
 - 銀行に追加融資を相談するべきか?
 
こうした判断は、資金繰り表がなければ「勘」に頼るしかありません。
「先行きが見えないこと」ほど、経営者にとって恐怖はありません。
経理の本音:「責任が重すぎる…」
一方、経理担当者の立場はどうでしょうか。
普段の仕事は、請求書整理や仕訳入力、振込処理といったルーティンが中心です。
ミスなく、正確に、同じ作業を繰り返すのが求められる世界です。
ところが資金繰り表は違います。
未来の数字を「予測」しなければなりません。
もし予測が外れて資金ショートすれば「経理のせいだ」と言われるリスクを負うことになります。
「だったら、作らない方が安全じゃないか」
経理担当者の心の声は、案外こんなところにあるのです。
部署間調整という“大仕事”
資金繰り表を作るには、経理だけで数字を出せるわけではありません。
- 営業部門:売上目標
 - 購買部門:仕入や外注費の予定
 - 管理部門:人件費やシステム費用
 
これらを集めて初めて、資金繰り表は完成します。
ところが現場ではこんな声が返ってきます:
- 「うちの部門は売上に応じて仕入れするだけだから、予算なんて立てられません」
 - 「広告費は社長の判断次第だから、経理で適当に入れておいて」
 
経理担当者が各部署を説得し、数字をまとめ、さらに社長や役員と調整する…。
想像以上に時間がかかり、ストレスも大きいのです。
よくある失敗パターン
- 
    
前年踏襲型
前年とほぼ同じ数字を並べただけ。変化が反映されず、実態から乖離していく。 - 
    
丸投げ型
「経理が作っておいて」と全責任を経理に負わせる。精度が低い上に、経理は疲弊。 - 
    
抵抗勢力型
資金繰り表の作成過程で“どんぶり勘定”が露呈するのを嫌い、予算作成に非協力的な部署が出る。 
こうした失敗は、どの会社でもよくある“あるある”です。
乗り越えるカギは「社長のリーダーシップ」
資金繰り表は、単なる管理資料ではありません。
会社全体で「予算意識」を高めるためのツールです。
したがって、社長が「最終承認だけ」していては機能しません。
- 各部署に対して「予算の根拠」を問いかける
 - 経理に丸投げせず、数字の方向性を示す
 - 協力しない部署には毅然と指摘する
 
これを社長自身が行うことで、経理担当者も「社長が本気で資金繰りに向き合っている」と感じ、主体的に関われるようになります。
理想的な運用は「毎月修正」
資金繰り表は一度作ったら終わりではありません。
毎月の実績を反映し、ズレを修正していくことで初めて意味を持ちます。
「作ったはいいけど放置」になれば、やがて誰も見なくなり、形骸化します。
逆に毎月更新すれば、経営会議での議論が具体的になり、会社全体の危機感や改善意識が高まっていきます。
まとめ
資金繰り表を作りたい経営者。
作りたくない経理。
この溝を埋めるには、
- 社長のリーダーシップ
 - 部署間の協力
 - 定期的な修正運用
 
が欠かせません。
資金繰り表は「会社の未来を守る羅針盤」です。
ぜひ「作りたい経営者」の想いを、会社全体で共有し、「作りたくない経理」の不安を解消する仕組みづくりに取り組んでいただきたいと思います。