ホンダに最大2.5兆円の衝撃──6300億円の損失計上とEV戦略見直しの本当の理由
ホンダが発表したEV戦略見直しと最大2.5兆円規模の損失リスク。米国・中国・東南アジアの市場環境の変化から読み解くホンダの苦戦と今後の自動車業界の構造変化を解説します。
ホンダに最大2.5兆円の衝撃
6300億円の損失計上とEV戦略見直しの本当の理由
2025年、
日本の大手自動車メーカー ホンダ が発表した
- EV戦略の見直し
- 最大2.5兆円規模の損失リスク
- 6300億円の損失計上
というニュースが市場で大きな話題となりました。

(記者会見の三部社長 出典:Car Watch)
(https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1662667.html)
世界でEVをほとんど販売できていないホンダは2021年に就任した三部社長のもと、
2040年にすべての新車販売を電気自動車と燃料電池車にする計画でした。
しかし、EV市場が想定以上に鈍化したことに伴い、
アメリカで販売を予定していたEV3車種の開発を中止しました。
この結果、ホンダは上場以来初の赤字決算を迎えることになります。
今回の発表は、
「世界のEV戦略が転換点を迎えている」
ことを象徴する出来事とも言えます。
本記事では、ホンダがEV戦略を見直すに至った背景を
- アメリカ市場
- 中国市場
- 東南アジア市場
という3つの視点から整理して解説します。
1.アメリカ市場での不振
ホンダの収益にとって
北米市場は最大の利益源です。
ホンダの自動車販売台数の約半分は北米市場となっています。
しかし現在、この市場環境が大きく変化しています。
① トランプ関税による収益悪化
米国では2025年3月にトランプ大統領が大統領令に署名し、新たな関税措置が発動しました。
これにより、アメリカに輸出される自動車の部品および完成品は25%の関税がかけられています。
ホンダの北米販売車は
- メキシコ生産
- カナダ生産
- 日本からの部品輸入
といったサプライチェーンを持つため、
関税の影響を受けやすい構造になっています。
この関税は価格にそのまま転嫁されるわけではありません。
実際には
- メーカー負担
- 部品価格調整
- 生産拠点変更
などで吸収されます。
アメリカは物価上昇が続いており、顧客の購買力を考えると
関税の価格転嫁を十分に行うのは難しい状況です。
② 化石燃料規制の緩和とEV補助金の見直し
アメリカでは政権によって
- EV補助金
- 環境規制
- 燃費規制
が大きく変わります。
アメリカではトランプ大統領の就任に伴い、
- パリ協定の脱退をはじめとする脱炭素政策の縮小
- EV購入税額控除(最大7,500ドル)の廃止
などを実施しました。
EV政策の縮小については、アメリカのEV大手テスラのCEOイーロン・マスク氏と
トランプ氏の関係が悪化する一因となりました。
実際にアメリカ全体のEV販売台数の推移をみると、
2025年に販売台数は減少に転じ、EV市場の拡大が止まりました。

(出典:Cox Automotive)
(https://www.coxautoinc.com/insights-hub/q4-2025-ev-sales-report-commentary)
EV推進政策の緩和によって、
EVへの巨額投資をしても市場が急成長しない
というリスクが生まれてしまいました。
これからEV市場を開拓していきたいホンダにとって大きな逆風です。
2.中国市場での不振
中国では、EV市場が順調に拡大しています。
一方、日本メーカーは苦戦しています。
特にホンダは中国でEVをほとんど販売していないだけでなく、EV以外の車も販売減少が顕著です。
中国でのホンダ販売台数は
わずか数年で
半減しています。
ソフトウェア領域で新興EVメーカーに遅れ
中国ではEV市場の競争軸が
「電動化」ではなく「ソフトウェア」
へ移っています。
代表的な企業は
- BYD Company
- NIO
- XPeng
- Li Auto
などです。
これらの企業は
- 自動運転機能
- OTAアップデート(遠隔操作)
- スマートコックピット
といった
ソフトウェア中心の車づくり
を進めています。
一方、日本メーカーは
ハードウェア中心の開発文化
が強く、
ソフトウェア領域で遅れが出ています。
その結果、
中国ではEV競争に乗り遅れた
と言われています。
3.アジア圏での販売不振
東南アジアは
日本メーカーの最後の牙城
と言われてきました。
2010年代には
日本メーカーのシェアは
約80〜90%
にも達していました。
しかし最近は状況が変わっています。
ホンダの東南アジア販売台数
販売不振は中国だけではありません。
販売台数はここ数年
減少傾向が続いています。
| 年 | 販売台数 |
|---|---|
| 2016 | 約43万台 |
| 2019 | 約41万台 |
| 2022 | 約36万台 |
| 2024 | 約30万台 |
なぜ競争力が低下したのか
原因の一つが
EV開発へのリソース集中
です。
ホンダは2021年に
EV投資10兆円
という大型計画を発表しました。
その結果
- エンジニア
- 開発費
- 新車開発
がEVに集中しました。
しかし東南アジアでは
- EV普及率がまだ低い
- ガソリン車が主流
です。
つまり
EVに投資した結果、
ガソリン車の商品力が弱くなった
という構図です。
4.2.5兆円の損失、上場以来初の赤字
今回の発表で最も注目されたのが
最大2.5兆円の損失リスク
です。
これは主に
- EV関連設備
- バッテリー投資
- 開発資産
の減損によるものです。
この2.5兆円の損失は来期以降の損失も含まれた金額です。
このうち、今期はすでに
6300億円の損失計上
が見込まれています。
この結果、ホンダは上場以来初の赤字となる見込みです。
EVバブルは終わったのか
ここ数年、
世界の自動車メーカーは
EVへの巨額投資
を行ってきました。
しかし最近は
- EV需要の鈍化
- 補助金縮小
- 価格競争激化
などにより
EV投資の見直し
が相次いでいます。
実は、EUの大手自動車会社ステランティスもEV需要の低迷を受けて、
エンジン車の開発強化に回帰しています。
その結果、ホンダ同様に減損処理を行ったことで最終赤字に転落しました。
アメリカのテスラも業績鈍化を受けて
一時期、株価がピークから大きく下落した時期がありました。
世界的にEV業界は大きなターニングポイントを迎えています。
今回ホンダが決断した開発中止はまさにその象徴と言えるでしょう。
ホンダは日産のように堕ちてしまうのか
EV関連の大きな損失を出すものの、 ホンダの主力事業は四輪事業ではありません。
主力は二輪事業で、四輪事業の倍以上の利益があります。
今までの決算では、好調な二輪事業と円安の恩恵を受けてきました。
2025年3月期事業別業績
| 二輪事業 | 四輪事業 | 金融事業 | その他 | |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 362億円 | 1447億円 | 351億円 | 41億円 |
| 営業利益 | 66億円 | 24億円 | 32億円 | -1億円 |
ホンダは二輪車で得た資金でEV開発を進めてきました。
テスラやBYDのように、EV専業の会社が台頭してきた中、
ホンダも同じくEV開発を全力で進めましたが計画通りに進んでいません。
今後も開発と収益のバランスをどう調整していくか非常に難しいかじ取りを迫られます。
今後の自動車業界の方向性
自動車業界では現在、
次のような戦略が議論されています。
- EV一本化
- ハイブリッド中心
- マルチパス戦略
この中で注目されているのが
トヨタの
「マルチパス戦略」
です。
これは
- EV
- ハイブリッド
- ガソリン車
を並行して開発する戦略です。
EVの普及速度が不確実な中では
この柔軟な戦略が評価されています。
まとめ
ホンダのEV戦略見直しは
単なる企業の失敗ではなく
自動車産業全体の転換点
とも言える出来事です。
今回のポイントを整理すると
- 米国:関税政策とEV政策の不確実性
- 中国:ソフトウェア競争で新興EVに遅れ
- 東南アジア:EV投資によるエンジン車競争力低下
- 最大2.5兆円の損失リスク
EVシフトは今後も続くと見られますが、
そのスピードは当初の想定より
かなり緩やかになる可能性
があります。
今回のホンダの戦略転換は、
その現実を示した出来事なのかもしれません。


