伊藤園が赤字転落の衝撃 ~大谷効果はなかったのか~
伊藤園が減損損失の計上により通期赤字見通しを発表。自販機事業の構造問題、茶葉高騰による原価上昇、大谷翔平を起用した海外戦略の成果などを具体的なデータとともに解説します。
2026年3月、飲料メーカー大手の伊藤園が第3四半期時点での赤字決算を発表し、市場に衝撃が走りました。
通期予想でも利益がほぼゼロとなる見込みです。
日本を代表するブランド「お~いお茶」を抱える同社ですが、なぜ赤字に転落したのでしょうか。
本記事では、決算資料や各種統計をもとに
- 自販機事業の構造問題
- 大谷翔平起用による海外戦略
- 茶葉価格高騰による原価上昇
などを具体的な数字とともに解説します。
出典:伊藤園ニュースリリース https://www.itoen.co.jp/news/article/72496/
1.通期赤字の見通し、その原因とは
伊藤園は2026年4月期の業績として、第3四半期時点での赤字決算を公表しました。
原因は明確で、自動販売機事業における減損損失の計上です。
減損損失とは、将来の収益見通しが悪化した場合に、帳簿上の資産価値を引き下げて損失計上する会計処理です。
つまり、今回の減損は
自販機事業の将来収益が当初想定より低くなる
という判断を意味します。
伊藤園の決算資料によると、
自販機関連資産の減損は約150億円規模とされています。
また、貸借対照表を見ると、有形固定資産の
「その他(純額)」が100億円以上減少
しています。
この項目には主に
- 自動販売機本体
- 設置設備
- 関連機器
などが含まれています。
自販機ビジネスは長期投資型
自販機ビジネスは、典型的な設備投資型ビジネスです。
例えば飲料自販機1台のコストは概ね以下の通りとされています。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 自販機本体 | 約60万~100万円 |
| 設置工事 | 約10万~20万円 |
| 年間電気代 | 約3万~5万円 |
| 補充・配送コスト | 年間数万円 |
自販機の寿命は一般的に8~10年と言われています。
つまり、設置した時点で
10年程度の収益を見込んで投資する
ビジネスモデルです。
しかし近年は、想定を大きく超えるコスト上昇が発生しました。
自販機業界を直撃したコスト上昇
伊藤園は決算説明で
原材料費・物流費・人件費の上昇
を減損の主因として挙げています。
特に影響が大きかったのは以下です。
| コスト項目 | 背景 |
|---|---|
| 電気代 | エネルギー価格高騰 |
| 物流費 | ドライバー不足・燃料高 |
| 人件費 | 労働力不足 |
例えば日本の軽油価格は
- 2020年:約110円/L
- 2025年:約160円/L
と大きく上昇しています(資源エネルギー庁)。
自販機市場そのものも縮小
さらに問題なのは需要側の変化です。
日本の自販機台数は長期的に減少しています。
| 年 | 自販機台数 |
|---|---|
| 2000年 | 約560万台 |
| 2010年 | 約520万台 |
| 2023年 | 約400万台 |
(日本自動販売システム機械工業会)
つまり
20年で約30%減少
しています。
伊藤園もその影響を受けて台数を大きく減らしています。
| 年 | 自販機台数 |
|---|---|
| 2015年 | 約16.5万台 |
| 2025年 | 約7.5万台 |
コンビニ・ドラッグストアとの価格競争
自販機の最大の弱点は価格の高さです。
例えばペットボトル飲料の価格は
| 販売チャネル | 価格 |
|---|---|
| 自販機 | 約160~200円 |
| コンビニ | 約160円 |
| スーパー | 約80~120円 |
| ドラッグストア | 約70~100円 |
特に近年はドラッグストアが飲料販売を強化しており、
自販機の価格競争力は低下しています。
このため飲料メーカーの間でも
- 自販機事業の縮小
- 運営会社への売却
などの動きが出ています。
2.大谷効果はあったのか
伊藤園は2023年にメジャーリーガーの大谷翔平選手と広告契約を結びました。
WBC優勝の年でもあり、日本国内でも非常に大きな話題となりました。
「お~いお茶」のパッケージにも大谷翔平が登場し、
広告展開は非常に積極的です。
海外でもニューヨークやロサンゼルス、韓国、台湾などで屋外広告を実施しています。
アメリカ事業は急成長
大谷起用の効果を見る上で重要なのが北米事業です。
伊藤園の米国子会社
ITO EN North America
の業績は以下の通りです。
| 年 | 売上 |
|---|---|
| 2023 | 約3.18億ドル |
| 2024 | 約3.40億ドル |
(ITO EN North America決算)
為替150円換算では
約500億円規模
になります。
伊藤園の連結売上は約4700億円なので、
海外売上は約1割
まで拡大しています。
今年度のアメリカ事業は、
第3四半期経過時点の売上がすでに約3.27億ドルを突破しており、
前年比25%近い増加になる見込みです。
無糖茶市場が米国で拡大
アメリカでは健康志向の高まりから
- 無糖飲料
- オーガニック飲料
が急成長しています。
伊藤園は
- Oi Ocha
- TEA’S TEA
などのブランドで販売しており、
- Whole Foods
- Costco
- Amazon
などで流通しています。
大谷翔平のブランド効果
伊藤園は2024年から
「Oi Ocha Global Ambassador」として
大谷翔平を起用しています。
同社によると、これは
世界的な認知度向上を目的とした施策
とされています(伊藤園IR資料)。
また、伊藤園はWBCのスポンサーも務めています。
2026年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の記者会見では、
机の上にスポンサー飲料として置かれていた
お〜いお茶(大谷翔平が広告に出ているボトル)を
海外の選手が机の下に移動させて隠す行動をしたことが話題になりました。
高額といわれる大谷翔平の広告起用ですが、
ここ数年の米国事業の成長を見ると、
大谷効果は一定程度あった
と考えることができます。
3.茶葉価格の高騰が原価を直撃
伊藤園の営業利益が伸び悩んでいる最大の理由は
原価の上昇
です。
同社の売上原価率は
| 年 | 原価率 |
|---|---|
| 2022 | 約60% |
| 2024 | 約61% |
| 2025 | 約62% |
(伊藤園決算)
年々上昇しています。
茶葉価格の上昇
茶葉価格は長期的には下落していましたが、
近年は供給不足で上昇しています。
例えば鹿児島の荒茶平均価格は
| 年 | 価格 |
|---|---|
| 2023 | 約1700円/kg |
| 2025 | 約1919円/kg |
(南日本放送)
背景には
- 茶農家の減少
- 海外需要の増加
があります。
農林水産省によると
日本の茶農家は
| 年 | 戸数 |
|---|---|
| 2000年 | 約5万戸 |
| 2023年 | 約1.2万戸 |
と大きく減少しています。
伊藤園では、契約農家と長期契約を結び
量・価格ともに安定的な荒茶の生産を進めていますが、
原材料のコスト上昇は近年急速に進んでいます。
ペットボトル飲料は容器コストが大きい
さらに飲料メーカーの原価は
茶葉だけで決まりません。
ペットボトル飲料の原価構造は概ね
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 容器 | 約40% |
| 物流 | 約25% |
| 中身 | 約10% |
とされています。
PET樹脂は石油由来のため、
原油価格と円安
の影響を強く受けます。
4.先行きは海外拡大と原価の戦い
伊藤園の今後の最大のテーマは
海外事業の拡大
です。
国内市場はすでに成熟しており、
緑茶消費量も長期的に減少しています。
一方で海外では
- 抹茶ブーム
- 健康志向
- 日本食人気
により日本茶市場は拡大しています。
先行きの減損リスクは緩和された
今回150億円規模の主な減損対象となった自販機関連の固定資産(その他)は残り約120億円のため、
今後、自販機事業で今回ほど大きな減損が発生する可能性は低いです。
よほどのことがなければ、来期の利益は再び回復する見込まれます。
原価リスクは依然として高い
ただし今後も
- 茶葉価格
- 原油価格
- 為替
の影響は大きいでしょう。
特にイランの軍事衝突をはじめとする中東情勢などにより
原油価格が上昇すれば
- PETボトル
- 物流費
がさらに上昇する可能性があります。
伊藤園はコスト増加に伴い、
おーいお茶(600ml)の希望小売価格を引き上げ続けています。
- 2025年10月~:194円→216円
- 2026年3月~:216円→237円
今後も値上げが受け入れられるかは不透明です。
まとめ
今回の伊藤園の赤字見通しは
- 自販機ビジネスの構造問題
- 原材料価格の高騰
という業界構造の変化を反映したものです。
一方で
- 海外事業
- 無糖茶市場
は拡大しており、
長期的には成長余地も大きい企業です。
自販機依存の国内ビジネスから
グローバル飲料ブランドへの転換
が成功するかどうか。
今後の伊藤園の戦略は、日本の飲料業界の行方を占う試金石となりそうです。
