資金繰り表は外れても大丈夫。その理由と正しい使い方
資金繰り表の数字は必ず実績と一致させる必要があるのか?という疑問に答えます。予測が外れるのは当然であり、重要なのは乖離をどう説明し、どう経営に活かすかです。
資金繰り表を作るとき、最も悩ましいのが 「数字の正確さ」 です。
今回は入出金のタイミングではなく、数字の大小、つまり「売上や費用をどの水準で見積もるのか」というテーマについて考えていきます。
資金繰り表の数字は“当たらない”のが前提
結論から言えば、資金繰り表の数字は 必ず外れます。
上場企業ですら、業績予測を大きく外すことがあるのですから、中小企業の資金繰り予測がピタリと当たることなどまずありません。
例えば、
- 取引先の発注が急に減少する
- 想定外の修繕費や設備投資が発生する
- 為替や原材料価格の変動でコストが膨らむ
といった要因は日常茶飯事です。
したがって、「当てること」にこだわるよりも、「外れたときにどう対応できるか」が重要です。
「外れる数字」に意味はあるのか?
「どうせ外れるなら資金繰り表なんて意味がないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、それは誤解です。
資金繰り表は、ひとつのリスクパターンを見える化する道具 です。
基準値を置き、その基準に対してリスクを想定・議論できることに価値があります。
よくあるリスク要因
代表的なリスク要因を整理すると、以下のようになります。
- コスト増:原材料費・外注費の上昇、為替変動
- 資金調達リスク:融資の借換え失敗、追加融資が受けられない
- 売上リスク:売掛金の回収遅延、大口顧客の離脱
- 投資・成長リスク:採用拡大に伴う人件費増、広告費の増加、在庫確保に必要な資金増加
これらはネガティブ要因に限りません。
業績が好調なときでも「好調ゆえの資金不足」が起きることがあります。たとえば、注文急増に伴う仕入れ資金の不足や、新規採用コストの増加などです。
資金繰り表は、こうした “プラスのリスク” も含めて検討するための土台になるのです。
経営者のスタンスによって変わる数字
リスクに対してどう備えるかは、経営者のスタンスによって大きく異なります。
- 慎重派:「最悪の事態に耐えられるキャッシュを常に確保」
- 攻めの経営者:「ある程度の借入リスクを取っても成長投資を優先」
- バランス型:「金融機関との関係を重視しつつ、無理のない借入」
資金繰り表に「正解の数字」はありません。
重要なのは、経営者の頭の中のイメージを数字で可視化し、社内で共有すること です。
もし経営者の感覚と経理の予測がかけ離れている場合は、そのズレを埋める議論こそが資金繰り表の価値といえます。
外部提出用と社内用は分ける
資金繰り表は「誰に見せるか」で作り方が変わります。
- 社内管理用 → 経営者のイメージを優先し、現実的な数字で調整
- 金融機関提出用 → 説得力と一貫性を重視。実績との乖離が大きいと信用を失う恐れ
金融機関は資金繰り表が“主観的資料”であることを理解しています。
ただし、提出時には「楽観的に見せるのか」「堅実に見せるのか」で印象が変わることを忘れてはいけません。
最重要ポイント:「数字を説明できるか」
最後に、もっとも大切なことをお伝えします。
それは 「数字を論理的に説明できること」 です。
- 「前年と同じ水準にした」 → なぜ同じでよいのか?
- 「売上20%増加で見込んだ」 → なぜ20%で、30%ではないのか?
経営者が本当に知りたいのは、この“根拠”です。
ここを説明できなければ、資金繰り表はただの数字の羅列になってしまいます。
そして、説明可能な資金繰り表は、乖離が発生したときにも強いです。
「なぜ乖離したのか」を分析し、次回に反映できるからです。
これを繰り返すことで、資金繰り表の精度も経営判断の質も高まっていきます。
まとめ
「資金繰り表の数字は実績と乖離してはいけないのか?」という問いに対する答えは、
➡ 乖離しても構わない。ただし、数字の根拠を論理的に説明できることが重要
ということです。
資金繰り表は、未来を完璧に当てるためのものではありません。
リスクを把握し、備えを検討し、経営者の意思決定を支える “羅針盤” なのです。
乖離を恐れず、根拠を持った数字を積み重ねていきましょう。