粉飾決算はキャッシュフロー計算書で見抜ける?株式会社オルツの事例から学ぶ教訓
株式会社オルツの粉飾決算問題を題材に、なぜキャッシュフロー計算書は改ざんしにくく、投資家や経営者にとって重要なのかを解説します。PLやBSだけではわからない資金繰りの実態を見抜くポイントを紹介。
株式会社オルツの粉飾決算事件
2025年8月31日、株式会社オルツは上場廃止となりました。
2024年10月に上場したばかりで、わずか1年足らずでの上場廃止という事態は、多くの投資家に衝撃を与えました。
オルツは生成AIを用いたサービスを提供する企業で、特に「AI GIJIROKU(AI議事録)」という会議文字起こし・要約ツールで注目を集めていました。しかし、その裏で行われていたのは典型的な 循環取引による売上の架空計上 でした。
循環取引の仕組みとは?
オルツの粉飾スキームを簡単にまとめると以下の通りです。
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販売代理店に商品を大量購入させる
実際には売れないにもかかわらず、帳簿上は「売上」として計上。 -
広告代理店を経由して資金を戻す
オルツ → 広告代理店に広告費を支払う
広告代理店 → 販売代理店に同額を支払う
販売代理店 → オルツの商品を購入する

結果として、資金はぐるぐる回るだけで実態の伴わない「売上」と「広告費」が膨らんでいきました。
監査法人から「同額取引は売上と認められない」と指摘されると、関連会社を複数経由させることでスキームを巧妙化。結果的に 2024年12月期の売上高60億円のうち約50億円が架空売上 だったと言われています。
PLとBSは粉飾できても、CFはごまかせない
粉飾により、PL(損益計算書)やBS(貸借対照表)は膨らんでいきます。
しかし、どうしても改ざんが難しい財務諸表があります。それが キャッシュフロー計算書(CF計算書) です。
2024年12月期のオルツのキャッシュフロー計算書を見てみると、
- 営業キャッシュフロー:▲24億円
- 投資キャッシュフロー:▲6億円
- 財務キャッシュフロー:+54億円
となっていました。
一見すると「財務キャッシュフローで資金を確保しているから大丈夫」と思うかもしれません。
しかし、営業キャッシュフローは大幅なマイナス。売上をいくら膨らませても、実際にキャッシュが入ってこなければ赤字のままなのです。
ポイント
キャッシュフロー計算書は「売上高」から始まらず、最初の行は「当期純利益」から。
つまり、架空売上でPLをよく見せても、CF計算書には反映されにくいのです。
投資家にとっての教訓
オルツの株は上場後、時価総額が300億円近くに達しました。
しかし粉飾が明るみに出て、最終的にはほぼ無価値に。投資家にとって大きな損失となりました。
この事例から得られる教訓は明確です。
- PLやBSだけでは実態を見抜けない
- CF計算書を見ることで「現金が伴っているか」を確認できる
- 営業CFがマイナス続きの会社には要注意
特にベンチャー企業の場合、投資キャッシュフローがマイナスでも、財務キャッシュフロー(資金調達)でカバーできていればまだ健全です。
しかし、営業CF・投資CF・財務CFがすべてマイナス という状態は非常に危険信号です。
経営者にとっての示唆
経営者の立場から見れば、キャッシュフロー計算書を整備し、外部に開示することは 信用力の獲得 につながります。
銀行や投資家は「数字が実際にキャッシュの動きと一致しているか」を見ています。
そのとき、PLやBSだけでは不十分。CF計算書を用意して提示することで、資金提供者に安心感を与えられるのです。
未上場企業には作成義務はありませんが、だからこそ他社との差別化になります。
「資金繰り表」や「キャッシュフロー計算書」を整備している企業は、金融機関や投資家からの評価が高まりやすいのです。
まとめ:キャッシュフローを整えることが最大のリスク管理
オルツの粉飾決算事件は、財務諸表のうち「キャッシュフロー計算書」だけはごまかしにくいことを改めて証明しました。
投資家にとっては、営業キャッシュフローの動向を確認することでリスクを早期に察知できます。
経営者にとっては、CFを整備して開示することで信用力を高められます。
資金繰りの実態を正しく把握し、粉飾の誘惑に惑わされない。
そのためにも キャッシュフロー計算書と資金繰り表を活用することが、健全経営とリスク管理の第一歩 です。
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