【金融政策解説】コロナ禍で銀行はなぜ積極的に融資したのか?金融正常化で変わる企業の資金調達環境を解説
コロナ禍で実施されたゼロゼロ融資や信用保証制度、日本銀行の資金繰り支援策をわかりやすく解説。金融正常化に伴い金融機関の貸出姿勢がどのように変化したのか、全東信の事例も交えながら読み解きます。
はじめに
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業が売上の急減に直面しました。
もし金融機関が通常どおりの審査基準で融資を行っていたとすれば、資金繰りに行き詰まる企業が相次ぎ、日本経済全体へ深刻な影響を与えていた可能性があります。
そこで政府、日本銀行、金融機関は、それぞれ異なる役割を担いながら企業の資金繰りを支えました。
その結果、コロナ禍では「銀行は積極的に融資していた」という印象を持つ人も多いでしょう。
一方で、2022年頃からは金融環境が徐々に変化し、企業の資金調達環境も以前とは異なる局面に入りつつあります。
本記事では、
- コロナ禍で銀行が積極的に融資できた理由
- 政府・日本銀行・金融機関が果たした役割
- 金融正常化による貸出姿勢の変化
- 全東信の事例との関係
について解説します。
コロナ禍で金融機関はなぜ積極的に融資できたのか
銀行は本来、融資先が倒産すると損失を負います。
そのため、経済が悪化した局面では、
「貸したお金を回収できなくなるのではないか」
という懸念から、融資姿勢が慎重になる傾向があります。
しかし、コロナ禍では状況が大きく異なりました。
政府と日本銀行が、それぞれ異なる立場から企業の資金繰りを支える仕組みを整備したためです。
政府が担った役割
政府は、企業倒産を防ぐため、さまざまな支援制度を創設しました。
代表的なのが、
- ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保で提供された政府支援の融資制度)
- 信用保証制度の拡充
- 各種補助金・協力金
です。
このうち、融資の面で特に重要な役割を果たしたのが信用保証制度です。
中小企業が金融機関から融資を受ける際には、普段から信用保証協会という公的な保証機関の保証を利用するケースが多くあります。
企業は保証料を支払って保証を受けることで、万が一返済できなくなった場合には、信用保証協会が金融機関へ代わりに返済(代位弁済)を行います。
もちろん、企業の返済義務がなくなるわけではなく、その後は信用保証協会へ返済を続けることになります。
コロナ禍では、この信用保証制度が大幅に拡充され、政府が保証料を補助するといった対応も行われました。
この結果、金融機関は通常よりもリスクを抑えながら企業へ融資を実行できる環境が整えられました。
また、飲食業など新型コロナの影響を大きく受けた業種には、営業時間短縮協力金など返済不要の支援も実施されました。
日本銀行が担った役割
一方、日本銀行は企業へ直接融資するわけではありません。
その代わりに、金融機関がお金を貸しやすい環境を整える役割を担いました。
代表的なのが、
新型コロナ対応金融支援特別オペレーション
です。
これは、金融機関が企業へ融資した金額に応じて、日本銀行が金融機関へ低利で資金を供給する制度です。
つまり、
企業
↓
金融機関
↓
日本銀行
という形で資金供給を後押ししました。
銀行側から見ると、
「企業へ貸しても、日本銀行から低利で資金を調達できる」
という安心感が生まれ、企業への資金供給が継続されました。
つまり、コロナ禍では、
- 政府が企業の信用リスクを支え
- 日本銀行が金融機関への資金供給を支え
- 金融機関が企業へ融資する
という役割分担によって、大規模な資金繰り支援が実現したのです。
コロナ禍から金融正常化へ
こうした緊急支援は、永続的な制度ではありません。
感染拡大が落ち着くにつれて、
- ゼロゼロ融資終了
- 日本銀行の資金繰り支援終了
- 信用保証制度の縮小
など、徐々に通常の金融環境へ戻っていきました。
また、日本銀行も以前は大規模な金融緩和を行っていましたが、
- 2022年12月:YCC(長短金利操作)の運用を柔軟化
- 2023年7月・10月:YCCをさらに柔軟化
- 2024年3月:マイナス金利政策を解除
- 2024年以降:段階的な利上げ
と金融正常化へ舵を切っています。
金融機関の貸出姿勢も変化
日本銀行は日銀短観といって、企業に対して四半期ごとに景況感についてアンケート調査を行っています。
日本銀行短観には、
貸出態度判断DI
という指標があります。
これは企業から見て、
「金融機関は融資に積極的か」
を示す景況感調査です。
企業にアンケート調査を行い、
- 全員が借入しやすいと思えば100
- 全員が借入しにくいと思えば-100
- 同数であれば0
といったように、回答数の割合で100~-100まで数字が変化する指標です。
コロナ禍では企業の資金繰り支援もあり、高い水準(借入しやすいと回答した企業が多い)で推移しました。
しかし近年は、コロナ対応の終了や金融正常化を背景として、徐々に以前より慎重な方向へ変化しています。
もちろん、直ちに「貸し渋り」が起きているわけではありません。
しかし、
コロナ禍という特殊な環境から、通常の信用リスクを重視する融資姿勢へ戻りつつある
と考えることができます。
全東信の事例から考える金融環境の変化
ここで興味深いのが、決済代行会社・全東信の事例です。
報道によれば、大手金融機関は2022年に全東信への貸出を終了したとされています。
もちろん、この事実だけで金融環境の変化が直接の原因だったと断定することはできません。
しかし、
- コロナ禍の緊急支援が徐々に終了したこと
- 日本銀行が金融正常化へ向かい始めたこと
- 金融機関が通常の信用評価へ戻りつつあったこと
などの時期と重なる点は非常に興味深いところです。
今後の調査によって詳細が明らかになる可能性はありますが、企業を取り巻く資金調達環境が変化していた時期だったことは間違いありません。
コロナ禍以降は、「全東信の資金弁済能力どのように映っていたか」が金融機関の融資スタンスに変化を与えた可能性もあります。
金融政策は企業経営にも大きな影響を与える
金融政策というと、
- 政策金利
- 長期金利
- 円安・円高
などが注目されがちです。
しかし、企業経営の現場では、
金融機関がお金を貸しやすいかどうか
も非常に重要です。
- 設備投資
- M&A
- 運転資金
- 新規事業
など、企業活動の多くは資金調達によって支えられています。
金融政策は、こうした企業活動の土台を支える重要な役割を担っています。
まとめ
コロナ禍では、
- 政府が信用リスクを支え
- 日本銀行が資金供給を支え
- 金融機関が企業へ融資する
という役割分担によって、日本経済の資金繰りが支えられました。
一方で、経済活動の正常化に伴い、金融機関の貸出姿勢も徐々に通常の状態へ戻りつつあります。
企業にとっては、
「借りられる時代」
から
「信用力がより重視される時代」
へ移行しているとも言えるでしょう。
全東信の事例も、こうした金融環境の変化を考えるうえで、一つの示唆を与えてくれるケースなのかもしれません。



