【企業分析】全東信から見たコロナ禍~飲食店支援と決済代行会社で異なった資金繰り環境とは?
コロナ禍では飲食店に対して大規模な補助金や融資支援が行われました。一方、飲食店を主要顧客とする決済代行会社・全東信はどのような財務環境に置かれていたのでしょうか。ビジネスモデルの違いから資金繰り環境を考察します。
はじめに
前回の記事では、コロナ禍において政府や日本銀行がどのように企業の資金繰りを支えたのかを解説しました。
コロナ禍では、
- ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保の融資)
- 信用保証制度の拡充(金融機関の融資焦げ付きリスクを軽減)
- 各種補助金・協力金
など、大規模な企業支援策が実施されました。
しかし、こうした支援はすべての企業に同じような効果をもたらしたわけではありません。
今回は、破産した決済代行会社・全東信の事例を通じて、
「飲食店を主要顧客とする決済代行会社は、コロナ禍でどのような財務環境に置かれていたのか」
という視点から考察します。
※本記事は公開資料や報道内容をもとに、決済代行会社の一般的なビジネスモデルを踏まえて考察したものです。全東信の個別の資金状況について断定するものではありません。
全東信の収益は加盟店の売上に左右される
全東信は、飲食店などの加盟店とクレジットカード会社の間に立ち、決済を代行する事業を展開していました。
一般的な決済代行会社の収益は、
加盟店の決済額
↓
決済手数料
↓
決済代行会社の売上
という仕組みになっています。
つまり、加盟店の売上が増えれば決済代行会社の手数料収入も増えますが、反対に加盟店の売上が減少すれば、手数料収入も減少することになります。
決済代行会社は、自社の商品を販売する企業とは異なり、加盟店の業績がそのまま自社の収益に影響しやすいビジネスモデルと言えます。
コロナ禍で飲食店は大きな打撃を受けた
2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、
- 外出自粛
- 営業時間短縮
- 酒類提供制限
などが実施され、多くの飲食店で売上が急減しました。
こうした状況を受け、政府は、
- 営業時間短縮協力金
- 持続化給付金
- 家賃支援給付金
- ゼロゼロ融資
など、幅広い支援策を実施しました。
特に営業時間短縮協力金は返済不要であり、店舗規模などによっては、一時的に手元資金が大きく改善した飲食店もあったと言われています。
もちろん、すべての飲食店が十分な支援を受けられたわけではありません。
しかし、飲食業は政府の支援対象として重点的に位置付けられた業種の一つでした。
一方で決済代行会社はどうだったのか
ここで興味深いのが、決済代行会社の立場です。
飲食店の売上が減少すると、
加盟店売上減少
↓
カード決済額減少
↓
決済代行会社の手数料収入減少
という影響を受ける可能性があります。
つまり、飲食店への支援策が実施される一方で、その周辺産業である決済代行会社も売上減少の影響を受けていた可能性があります。
一方、営業時間短縮協力金のような返済不要の支援は、飲食店そのものを対象とする制度であり、決済代行会社が同様の恩恵を受けるケースは限定的だったと考えられます。
もちろん、ゼロゼロ融資など資金繰り支援制度は利用できた可能性があります。
しかし、補助金と融資では企業財務への影響は大きく異なります。
補助金と融資では財務への影響が異なる
補助金と融資は、どちらも企業の資金繰りを支える制度ですが、財務上の意味は大きく異なります。
補助金は返済義務がなく、そのまま企業の資金となります。
一方、融資は一時的に資金を確保できますが、将来的には返済しなければなりません。
そのため、
- 補助金は企業の財務体質を改善しやすい
- 融資は資金繰りを支える一方、借入金も増加する
という違いがあります。
コロナ禍では、多くの企業がゼロゼロ融資を活用しましたが、その後の返済開始によって資金繰りが悪化した企業も少なくありません。
全東信の財務環境を考える
決済代行会社というビジネスモデルを考えると、
加盟店売上減少
↓
決済手数料収入減少
↓
利益減少
↓
自己資本の悪化
↓
借入依存度の上昇
という流れが生じる可能性があります。
さらに全東信については、これまでの記事でも紹介したように、
- 大型設備投資
- 長期間にわたる粉飾決算疑惑
- QRコード決済などとの競争激化
なども報じられています。
そのため、仮にコロナ禍で売上や利益に一定の影響を受けていたとすれば、こうした要因が重なり、財務体質へ複合的な影響を与えていた可能性も考えられます。
もちろん、現時点でコロナ禍が全東信の経営悪化の直接原因だったと断定することはできません。
しかし、飲食店を主要顧客とする事業構造を踏まえると、コロナ禍の影響を受けやすい環境にあった可能性は十分に考えられるでしょう。
金融正常化とのタイミングも重なる
コロナ禍では、政府や日本銀行による大規模な資金繰り支援が企業を支えていました。
しかし、2022年頃からは、
- ゼロゼロ融資の終了
- 信用保証制度の縮小
- 日本銀行による金融正常化
など、金融環境は徐々に通常の状態へ戻っていきます。
また、報道によれば、全東信では2022年に大手金融機関が貸出を終了したとされています。
もちろん、このタイミングだけで因果関係を断定することはできません。
しかし、コロナ禍による緊急支援が終わり、金融機関が通常の信用評価へ戻っていく時期と重なっている点は非常に興味深いところです。
コロナ禍は業種によって景色が異なっていた
コロナ禍というと、
「多くの企業が苦しかった」
というイメージがあります。
しかし実際には、
- 飲食店
- 観光業
- 製造業
- IT企業
- 決済代行会社
など、業種によって置かれた環境は大きく異なっていました。
特に全東信のように、飲食店を主要顧客とする企業では、
顧客企業の売上減少が、自社の売上にも波及する
という構造がありました。
一方で、飲食店向けに実施された返済不要の支援策を同じように受けられたとは限りません。
今回の事例は、コロナ禍の企業支援策が業種によって異なる影響をもたらしたことを考える上でも興味深いケースと言えるでしょう。
金融環境の変化は企業の倒産件数との関連が強い
東京商工リサーチが公表している倒産件数の推移をみると、コロナ禍以降、増加傾向となっています。
コロナ禍で資金繰りを耐えていたものの、収益環境が改善しなかった企業の倒産は今後も出てくる可能性があります。
まとめ
コロナ禍では、政府や日本銀行による大規模な支援策によって、多くの企業の資金繰りが支えられました。
しかし、その影響は業種によって一様ではありませんでした。
飲食店では補助金や協力金など直接的な支援が実施される一方、飲食店を主要顧客とする決済代行会社は、顧客の売上減少による影響を受けながらも、同様の支援を受けにくかった可能性があります。
全東信の経営悪化がコロナ禍だけで説明できるものではありません。
しかし、飲食店向け決済というビジネスモデルを踏まえると、コロナ禍が財務環境へ一定の影響を与えていた可能性は十分に考えられます。
企業分析では、一つの要因だけを見るのではなく、事業構造や政策、金融環境などを総合的に捉えることが重要です。



