【業績分析】ジョイフルを救ったヒカルコラボを数字で検証!コロナ禍・鬼滅コラボとの比較から見えた本当の効果
ジョイフルのヒカルコラボは本当に業績を救ったのか。コロナ禍の市場環境、日本フードサービス協会のデータ、鬼滅の刃コラボとの比較、ファミリーレストランの収益構造から、数字をもとに徹底検証します。
2021年7月、ファミリーレストラン大手のジョイフルは、YouTuberヒカル氏とのコラボ商品「冗談抜きで旨いハンバーグ」を発売しました。
発売後の販売ペースは驚異的で、
- 発売1週間で20万食
- 発売1か月で50万食
- 発売2か月で100万食
- 累計500万食突破
という大ヒット商品となりました。
SNSでは「ヒカルコラボがジョイフルを救った」と言われることもありますが、本当にそこまでのインパクトがあったのでしょうか。
今回は、
- コロナ禍での市場環境
- ほかの大型コラボとの比較
- ファミリーレストラン特有の収益構造
という3つの視点から、その効果を検証してみます。
コロナ禍で最も厳しいタイミングで始まったヒカルコラボ
まず忘れてはいけないのは、ヒカルコラボが始まったタイミングです。
2021年7月は、日本ではデルタ株が急拡大していた時期でした。
コロナ禍の主な出来事
| 時期 | 主な出来事 |
|---|---|
| 2020年4月 | 第1回緊急事態宣言 |
| 2020年7月 | Go Toキャンペーン開始 |
| 2021年1月 | 第2回緊急事態宣言 |
| 2021年4月 | 第3回緊急事態宣言 |
| 2021年7月 | ヒカルコラボ開始 |
| 2021年8~9月 | デルタ株拡大・緊急事態宣言 |
| 2022年1~3月 | オミクロン株・まん延防止等重点措置 |
| 2022年3月 | まん延防止解除 |
| 2023年5月 | 新型コロナ5類移行 |
つまり、ヒカルコラボは「コロナが終わってから」ではなく、感染拡大の真っただ中で始まっています。
ファミリーレストラン市場はコロナ前の6割程度しかなかった
日本フードサービス協会が公表している市場データを見ると、その厳しさがよく分かります。
2019年の売上を100とした場合のファミリーレストラン業態の売上指数は以下のように推移しました。
| 年月 | 売上指数(2019年=100) |
|---|---|
| 2020年4月 | 約41 |
| 2020年5月 | 約51 |
| 2020年6月 | 約74 |
| 2020年10月 | 約91 |
| 2021年1月 | 約65 |
| 2021年8月 | 約60 |
| 2021年9月 | 約60 |
つまり、ヒカルコラボがフルで実施された2021年8~9月は、
コロナ前の売上の約6割しか市場全体が存在しなかった
ことになります。
さらに2025年になると、外食需要は完全に回復し、月によっては2019年比120程度まで伸びています。
つまり、
ヒカルコラボ当時の市場規模は、現在の市場規模のおよそ半分程度だった
と言っても過言ではありません。
この市場環境だけを見ても、当時の集客の難しさが分かります。
それでも100万食を売り上げた意味
ジョイフルは現在、自社ホームページで
ハンバーグの1日当たり生産能力:約6万食
と紹介しています。
一方で、2025年6月期の年間売上高は約696億円。
ヒカルコラボ当時(2022年6月期)は約466億円でした。
売上規模だけを単純比較すると、
466億円 ÷ 696億円 ≒ 67%
となります。
現在の生産能力6万食を売上規模に比例させて考えると、
当時の生産能力は約4万食/日程度だったと推測できます。
すると、
4万食 × 30日 ≒ 120万食/月
となります。
一方、ヒカルハンバーグは発売2か月で100万食を突破しています。
単純計算ではありますが、月当たり約50万食。
つまり、
月間ハンバーグ生産量の半分近くがヒカル商品
となるくらいのインパクトでした。
通常の商品でここまで構成比が高くなるケースは極めて珍しく、その人気の高さがうかがえます。
鬼滅の刃コラボと比較するとさらに凄さが分かる
ジョイフルでは2024年にも「鬼滅の刃」と大型コラボを実施しました。
こちらも非常に成功し、累計100万食突破と公式発表されています。
しかし、ここで考慮したいのが市場環境です。
鬼滅コラボが行われた2024年後半は、コロナが完全に収束し、
ファミリーレストラン市場全体が2019年比120前後まで回復しています。
一方、ヒカルコラボ当時は約60。
市場規模は約半分です。
つまり、単純に市場規模で補正すると、
ヒカルコラボの100万食は、現在の市場規模では
約200万食相当
とも考えられます。
もちろん厳密な比較ではありませんが、
同じジョイフルの大型コラボとして考えると、
ヒカルコラボの集客力は鬼滅コラボを上回っていた可能性があります。
ファミリーレストランは固定費が非常に重い業態
ここで重要なのが、
ファミリーレストランの収益構造です。
ジョイフルは800店近くあった店舗をコロナ禍で
200店舗以上閉店しています。
実際の業績を見ると、
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 |
|---|---|---|
| 2019年6月期 | 784億円 | 10.8億円 |
| 2020年6月期 | 623億円 | ▲56.3億円 |
| 2021年6月期 | 476億円 | ▲33.7億円 |
| 2022年6月期 | 466億円 | ▲31.0億円 |
売上が400億円を超えていても、
営業赤字が30億円以上続いています。
これは、
- 店舗家賃
- 建物減価償却費
- 人件費
などの固定費負担が非常に大きいためです。
ファミリーレストランは、
一定以上の売上を確保できなければ、
利益が急激に悪化する典型的な装置産業です。
だからこそ、ヒカルコラボによる集客には、単なる売上以上の意味があります。
ハンバーグより重要なのは「ついで買い」
仮に、ハンバーグ定食を1,000円として、
月100万食売れたとしても、売上は約10億円です。
年間売上約466億円から見ると、決して劇的な数字ではありません。
しかし、ファミリーレストランでは、利益率が高い商品があります。
それが
- ドリンクバー
- デザート
- サイドメニュー
です。
つまり、ハンバーグが目的で来店したお客様が家族で来店し、
ドリンクバーやデザートも注文することで、
客単価と利益率は大きく改善します。
ファミリーレストランでは、
「何を売るか」よりも「何人来店してもらえるか」
の方が重要になる場面が少なくありません。
その意味で、ヒカルコラボは非常に価値の高いマーケティング施策だったと言えるでしょう。
ジョイフルを救ったコラボだったと言えるのか
もちろん、ジョイフルが復活した理由をすべてヒカルコラボに求めることはできません。
その後の業績回復には、
- 不採算店舗の整理
- コロナ収束
- 外食需要の回復
- コスト構造の改善
といった要因も大きく影響しています。
一方で、コロナ禍で2番目に市場環境が厳しかったタイミングで、
100万食という販売実績を残したことは、
企業にとって極めて大きな意味がありました。
営業赤字が続く中では、売上を維持し、
キャッシュを確保すること自体が企業存続につながります。
その意味では、ヒカルコラボは単なる話題づくりではなく、
ジョイフルの経営を支えた重要な施策の一つだったと評価してよいでしょう。
また、九州を中心に店舗展開していたジョイフルにとって、
全国的な知名度を持つインフルエンサーとのコラボは、
ブランド認知を一気に全国へ広げる効果もありました。
まとめ
ジョイフルはヒカルコラボの成功以降、
鬼滅の刃をはじめ、さまざまな人気コンテンツとのコラボを積極的に展開しています。
外食産業では、料理のおいしさだけでは差別化が難しい時代になっています。
期間限定メニューや人気IP・インフルエンサーとのコラボは、
新規顧客を呼び込み、既存顧客の来店動機を作る重要なマーケティング施策です。
今回の分析を通して見えてきたのは、
ヒカルコラボは単に「100万食売れた商品」ではなく、コロナ禍という過去最悪級の市場環境の中で、ジョイフルの集客を支え、経営を下支えした可能性が高い施策だったということです。
売上だけを見ればインパクトは限定的に映るかもしれません。
しかし、市場環境、固定費の高さ、来店客数の重要性を考慮すると、
その価値は販売食数以上に大きかったと考えられます。
