【不正会計解説】どうして上場企業のバリュークリエーションが循環取引に関わってしまったのか~KDDIの不正会計はここからはじまった~
本記事では、KDDI傘下企業で発覚した不正会計問題について、
「どうしてほかの上場企業が関わってしまったのか」「どんな問題があったのか」
という視点から、専門知識のない方にもわかりやすく解説します。
329億円という巨額の現金流出が起きたKDDIの不正会計。
ベンチャー企業はどうして関わってしまったのでしょうか。
今回は循環取引に加わったバリュークリエーションという会社にフォーカスしていきます。
1. KDDI不正会計事件の概要
2026年1月、KDDIの子会社が循環取引による不正会計を公表しました。
架空取引によって広告代理事業の99.7%の売上を偽造し、業績が好調であるように見せかけていました。
偽装した売上は2460億円、売上を偽装するために取引先企業に支払った手数料は329億円という巨額の不正です。
※不正会計の全体像と循環取引については、以下の記事で詳しく解説しています。
不正の手法は「循環取引」といって、架空の案件を複数の会社が再委託し続けることで各社の売上を膨らまし続ける不正です。
この不正の過程で仲介手数料を受け取っていたのが、東証グロース上場企業バリュークリエーションです。
2. バリュークリエーションが関わった経緯
バリュークリエーションとKDDI子会社の架空取引は2018年ごろから始まっています。
最初に不正取引に加わったのがバリュークリエーションです。
2-1. かつての同僚から持ち掛けられた仲介案件
循環取引に関わったバリュークリエーションの社員とKDDI子会社ジー・プランの社員は、インターネット広告代理事業の会社で先輩と後輩の関係として同じ職場に在籍していました。
この二人がビジネス交流会で再会したことがきっかけで、両社の取引が開始しました。
取引の主な内容は、
ジー・プランが受託した広告運用案件
↓
バリュークリエーションに外注
↓
バリュークリエーションがさらにほかの会社に外注
といった、三次受け、四次受けに委託するための仲介案件でした。
しかし、その実態は、ジー・プラン社員が社内で立ち上げた広告代理事業をうまくいっているように見せかけるための架空案件でした。
2-2. 上場と取締役への昇進
8年間の架空案件の仲介によって、バリュークリエーションは16億円の手数料を得ることになりました。
こうして、売上が増加していった当社は、
- 2020年にはジー・プランから仲介案件を受注した社員が取締役に就任
- 2023年には東証グロース市場に上場
といった、一見すると華やかな経緯をたどってきました。
しかし、不正会計の発覚によって、
- 会社のイメージダウン
- 社内調査及び各種対外公表のコスト発生
- 当該取締役の辞任
といった影響があり、社内体制のさらなる整備が求められています。
3. 何が問題だったのか
今回、KDDI子会社社員は架空案件だと知らせずに仲介取引を持ち掛けていました。
しかし、バリュークリエーション側にも循環取引を見抜くことができず、安易に取引を拡大してしまった原因があります。
3-1. 上場に向けて売上が必要だったこと
上場企業や上場準備をする企業は、投資家に対して、事業の成長ストーリーを示すことが大事です。
最初、広告案件全体の年間取引金額が2億円程度でしたが、上場前の年には200億円になりました。
業績目標を達成するために、バリュークリエーション側から取引の増額を求めたことも相まって、取扱額の増加は異常なペースとなっていました。
よって、この異常なペースに違和感を持って、案件内容を詳細に調査するという「ブレーキ」は働いていませんでした。
3-2. 取締役に対するけん制
当該社員は取締役に就任後もジー・プラン社員との主な窓口を担当していました。
この間、ジー・プラン役員があいさつのために面談に来た時も、ジー・プラン社員から依頼されて、虚偽の内容をジー・プラン役員に説明していました。
また、受注している仲介案件についても、実態を確認していませんでした。
「取締役が関わっている案件だから」ということが、社内におけるけん制を弱めてしまいました。
3-3. 循環取引に対するチェック機能
広告代理事業では、今回のような再委託による仲介は珍しいものではありません。
また、個々の案件について詳しい内容を知らないケースもあります。
しかしながら、循環取引という不正に対する理解とチェック機能の整備が十分ではありませんでした。
さらに、本来手数料を受け取るはずだったものの、不正発覚のタイミングによっては、現金を回収できないリスクも存在していました。
3. 「先出し」によって大きなリスクを背負っていた
結果として16億円の手数料を受領したバリュークリエーションですが、タイミングによっては大きな損失が発生する可能性がありました。
3-1. 「先出し」とは?
循環取引は、各社が案件を再委託するたびに手数料を取るので、循環資金が小さくなっていきます。
このため、KDDI子会社は案件を受託する前に委託先に支払いを済ませる「先出し」という手法をとっていました。
「先出し」は事前に委託先に支払いを行い、その後、受託先から報酬を受け取るという決済方法です。
今回の不正は、循環資金が先細るのを防ぐため、「先出し」によって資金を支払い続け、循環取引を継続するという手口が使われていました。
また、「先出し」は特徴として
- 委託先からは喜ばれるが、自社の資金効率が悪くなる
- 万が一、受託先からの報酬支払が滞ると支払分の現金がなくなるリスクを負う
- リスクが大きい分、仲介手数料を多く取れる
というメリット・デメリットがあります。
3-2. 「先出し」のリスク
実は「先出し」を最初に行っていたのはバリュークリエーションでした。
売上を拡大させたかったバリュークリエーションは、ジー・プランとの取引初期から再委託先への「先出し」をしていました。
その結果、この先出し資金が循環取引の規模を拡大させていくきっかけになりました。
リスクを背負ってでも、売上を伸ばしたかったバリュークリエーション側の思惑がうかがえます。
しかし、「先出し」は案件受託先からの支払が滞るリスクが大きくなります。
仮に、取引金額が大きくなる過程で不正が発覚し、受け取ってきた手数料よりも大きな金額の売掛金が回収不能になった場合は、直接損失を被る可能性もあったのです。
まとめ
今回の事例では、架空取引を主導したのはKDDI子会社の担当者でした。
しかし、それだけでなく、取引先であるバリュークリエーション側にも、
- 取引内容や商流を十分に確認できなかったこと
- 急速に拡大する取引へのリスク管理が十分ではなかったこと
など、内部統制上の課題が見受けられました。
一方で、この事例は単純に「不正に加担した会社」という見方だけでは捉えきれません。
広告代理店業界では再委託や仲介取引そのものは珍しくなく、実態を伴わない循環取引との境界を見極めることは容易ではありません。
だからこそ、取引規模が急激に拡大している場合や、特定の担当者に情報が集中している場合には、経営陣や管理部門による客観的なチェックが重要になります。
KDDIの不正会計事件は、一社だけの問題ではなく、多くの取引先を巻き込んだ大規模な循環取引でした。本記事が、不正会計の仕組みや企業分析におけるリスクの見方を考えるきっかけとなれば幸いです。
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