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【企業分析】ニチレイはなぜ数日で物流を再開できたのか?システム障害から考える物流会社のBCP

ニチレイのシステム障害を題材に、低温物流の仕組みやBCP、段階的な業務再開の考え方を解説します。『復旧=完全復旧』ではない物流会社の舞台裏を企業分析の視点から読み解きます。

【企業分析】ニチレイはなぜ数日で物流を再開できたのか?システム障害から考える物流会社のBCP

2026年7月13日、ニチレイはサイバー攻撃によるシステム障害が発生したことを公表しました。

そもそも、ニチレイはどんな会社で、サイバー攻撃によってどんな対応が必要だったのでしょうか?

ニチレイはなぜ数日で物流を再開できたのか?

ニチレイグループで発生したシステム障害は、多くの食品メーカーや外食チェーンへ影響を与えました。

物流が止まるということは、単に商品が届かなくなるだけではありません。

冷凍食品や冷蔵食品を取り扱う企業では、物流そのものが事業の根幹を支えるインフラだからです。

しかし、今回のニュースを見ていて、一つ疑問が浮かびました。

「サイバー攻撃を受けたにもかかわらず、なぜ数日で配送を再開できたのだろうか?」

今回は、この疑問をきっかけに、物流会社のBCP(事業継続計画)の考え方について考えてみます。


ニチレイは物流会社なのか?

「ニチレイ=冷凍食品」というイメージを持っている方は多いのではないでしょうか?

実は、ニチレイは冷凍食品事業の売上が全体の半分しかありません。

ニチレイのもう一つの中核事業は、「低温物流事業」です。

全国各地に冷凍・冷蔵食品の保管・配送を行う物流センターを持っています。

自社商品だけでなく、各メーカーの商品を拠点に集約し、各納品先別に仕分けして届ける「共同配送」を行っています。

ニチレイの物流事業の強みは、

  • 全国に配送拠点がある
  • 倉庫規模が大きく、日本最大級の冷蔵保管能力をもつ
  • 温度管理技術が高く、鮮度を保った配送ができる

といった特徴があります。

ニチレイ事業
※ニチレイ26年3月期事業概要説明資料より抜粋

売上こそ冷凍食品事業が大きいですが、実は物流事業の方が利益が大きく、1番の稼ぎ頭になっています。


システム障害の影響

ニチレイは全国に配送拠点があるため、システム障害の影響は広範囲に及んでおり、

・ケンタッキー ・くら寿司

といった全国チェーンの店舗で一部商品の欠品が発生しています。

また、全国のコンビニ・スーパーなどで、アイスや冷凍食品の入荷が遅延している影響が出ています。

なぜニチレイの商品以外も影響を受けたのか

ニチレイの保管・物流事業を利用している企業は5,000社に上ります。

倉庫に保管しているのは、ニチレイが製造している冷凍食品だけではありません。

外国や他社の商品も含めて倉庫に商品が集約され、別の配送拠点や店舗に配送しやすいように仕分け・出荷をしています。

このため、ハーゲンダッツなどの定番商品も一部地域で、製造はされているけど出荷ができていない状態になりました。


サイバー攻撃は対応が異常に大変

ニチレイは7月13日に不正アクセスによるシステム障害を検知したのち、7月17日には一部業務を再開しました。

ニュースを聞いた方の中には、「意外と業務再開が早かった」と感じる方もいたのではないでしょうか?

しかし、サイバー攻撃を受けた場合の対応は想像をはるかに超えます。

「復旧」と「業務再開」は同じではない

サイバー攻撃を検知した場合、ウイルスが別システムに侵入するのを防ぐため、一度、関連システムをすべて停止させる必要があります。

サイバー攻撃を受けた場合、直接的な被害の大きさに関わらず、営業を全面的に停止せざるを得ないケースもあります。

こうした中、ニチレイは、数日で順次業務を開始しましたが、通常稼働については、サイバー攻撃を受けた翌週以降を目指した対応を進めています。

ここで、注意したいのが、業務の一部再開ができたからといってシステムが完全復旧したという意味ではありません。

サイバー攻撃を受けた場合の対応は、大まかに以下の流れで業務を再開します。

通常運用

システム障害

被害範囲を特定

安全な業務だけ再開

徐々に通常運用へ戻す

できる限り業務遅延を減らすため、段階的な業務再開を行っているのです。

なぜ段階的な再開ができるのか

物流会社では、

自然災害やシステム障害などを想定したBCP(事業継続計画)が整備されています。

例えば、

  • 物流センターごとに影響を切り分ける
  • 手作業による代替運用へ切り替える
  • 優先度の高い配送から再開する
  • システムのバックアップデータを利用する

といった対応です。

ニュースでは

「配送再開」

という一文だけでも、

実際の現場では

膨大な判断が行われています。


システムは止まっても、会社まで止めない

ここがBCPの考え方です。

一般的には、

1
2
3
4
5
システム停止

↓

業務停止

と思われがちですが、

実際には

1
2
3
4
5
6
7
8
9
システム停止

↓

ローカルシステム・Excelなどによる代替運用

↓

最低限の業務継続

という方法もあります。

もちろん効率は下がります。

しかし、

「完全停止」

よりも

「最低限でも動かし続ける」

ことが重要になります。

大手企業では、こうしたシステム障害での影響を最小限に抑えるため、

ある程度想定されるシステム障害のケースに合わせて別ラインでの業務再開訓練を行っています。


完全復旧にはもっと時間がかかる

一方で、

業務を再開したからといって、

原因究明まで終わったわけではありません。

一般的には、

  • 侵入経路の調査
  • 被害範囲の確認
  • ログ解析
  • 再発防止策

などは、

数週間から数か月かけて実施されることもあります。

つまり、

「業務再開」

「システム完全復旧」

は別々に進むケースが多いのです。


倉庫が止まっても店舗はなぜ止まらないのか

ここがおもしろいところです。

ニチレイの物流停止の影響を受けたケンタッキーですが、この期間中に店舗を訪れた人の中には、

「オリジナルチキンはないのに、なぜレッドホットチキンだけあるのか?」

といったように、全部のチキンが販売停止になっていないことに疑問を感じた人もいるのではないでしょうか?

物流システムの障害に備えているのは物流会社だけでなく、店舗側も同じです。

こうした場合に備えて、大手チェーン店では、普段から複数の物流会社と契約しておくことで、リスクを分散しています。

商品の欠品が一部にとどまっているのはこのためです。

とはいえ、主力商品が欠品した場合、「店舗を開ける意味があまりないのでは?」と思う方もいるかもしれません。

しかし、主力商品がなくても、店舗の営業を続けることには非常に意味があります。

大手チェーン店は、そのブランド力を生かして、駅近や大規模商業施設などの好立地に店舗があることが多いです。

こうした店舗は家賃が異常に高いため、たとえ店舗を営業していなくても家賃はかかり続けます。

また、仕入れておいた商品のロスも大量に発生します。

こうした損失を防ぐためにも、業務を継続することが必要になります。


サイバー攻撃は防ぎきれない時代になりつつある

近年、大手企業がサイバー攻撃の被害を受けるのは珍しいことではなくなりました。

  • アスクルがランサムウェアによる攻撃を受けてシステム障害が発生
  • バンダイナムコは未成年がAIを利用して作成されたプログラムによって既存会員が強制退会する被害

など、大手企業でもシステム障害による業務遅延や、個人情報の流出などの被害が起きています。

これまでのシステムセキュリティは主に、既存のウイルスを検知することによる対策がメインでした。

近年はAIの台頭によって、未知のシステムの脆弱性を発見する技術が急速に高まってしまったため、サイバー攻撃を完全に守るという概念はコストパフォーマンス上、難しい時代になりました。

一方で、注目されているセキュリティの考え方は、ゼロトラストと呼ばれるものです

システムに不正なアクセスが発生しても、被害を広げない運用方法です。

例えば、

  • 最小権限
  • 多要素認証
  • ネットワーク分離
  • 常時認証

といったアクセス認証やデータ連携を、社内システムであっても細かく設定するのです。

こうすることで、一つのシステムが不正アクセスを受けても、ほかのシステムへのアクセスを制限しやすくなり、被害を抑える効果があります。


今回注目したいのは「止まらない仕組み」

今回のニュースを通して感じたのは、

物流会社が本当に競争しているのは、

配送スピードだけではないということです。

システム障害や災害が発生した際に、

どれだけ早く事業を再開できるか。

これも企業競争力の一つになっています。

物流は、

食品メーカーや外食チェーンを支える社会インフラです。

そのため、

「絶対に止めない」

ではなく、

「止まってもできるだけ早く再開する」

という考え方が重要になります。


まとめ

今回のニチレイのシステム障害を通して感じたことは、

「復旧」という言葉だけでは、実態を正しく理解できないということです。

業務を一部再開しただけなのか。

システムまで完全復旧したのか。

あるいは代替運用なのか。

これらはすべて意味が異なります。

ニュースでは数行で終わってしまう内容ですが、

その裏側には、

企業が長年積み重ねてきたBCPや運用ノウハウがあります。


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